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「蘭さん……」  古城が、驚いたように目を見張る。 「それにいずれにせよ、あなたは陽介の選挙のサポートを、今日まで頑張ってくださった。それには、とても感謝しているんです。そして僕だけじゃなく、陽介も、あなたを恨んでいないと思います。彼、いつか言っていました。古城さんは信頼できる人だ、兄貴みたいだって」  古城は、しばらく絶句した後、ぽつりと言った。 「そうですか……。そんな風に仰っていただく資格は、私にはないのに。陽介先生を、裏切ってしまって……」 「もういいんですって。それよりお母さん、お大事になさってくださいね」 「ありがとうございます……」  再び頭を下げると、古城は蘭を、奥の部屋へと案内した。 「先日は紹介せず、すみませんでした。うちのスタッフたちです」 「初めまして、陽介の番の、蘭と申します。このたびの選挙では、彼をサポートいただき、本当にありがとうございました」  挨拶しながらも、蘭はひそかに驚いていた。常勤だというスタッフ五人は、全員オメガだったのだ。政治家の事務所勤務なんて、ハードな仕事である。てっきり、スタッフは体力のあるアルファか、それかベータを想像していたのだ。すると古城が、横から口を挟んだ。 「陽介先生の方針なんですよ。求人には、オメガ歓迎と書くように、と」 「そうなんですか?」  はい、とスタッフの一人がうなずく。 「信じられなかったですよ! 僕、ヒートがひどくて、そのせいで仕事を何カ所もクビになったんです。困り果てていた時に、職業安定所でここの求人を見ました。本当にオメガでも雇ってもらえるのかって、半信半疑でしたけど。でも、陽介先生は、スムースに採用してくださって。おまけに働き出してからも、すごく気遣ってくださるんです。ヒート休暇も、ちゃんと認めてくれるし……」

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