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 ちっとも知らなかった。陽介の新たな一面を見たようであっけにとられていると、別のスタッフが話しかけてきた。待ちかねていたようだ。 「蘭さん、週刊誌、見ました! 番なのに公表してもらえないなんて、辛すぎですよね。同じオメガとして、胸を痛めていたんです」 「黙って、陰で陽介先生を支えてらしたんですね。オメガの鑑です! こうしてお会いできて、光栄です!」  他のスタッフたちも、口々に同意する。思いがけなく好意的に迎えられ、戸惑っていると、背後からぽんと肩に手を置かれた。陽介だった。 「皆、うちの奥さんを歓迎してくれて、ありがとう。でもそろそろ、俺に返してくれるかな?」  冷やかすような野次が飛んでくる。陽介はそれを適当にかわすと、蘭を別室へ連れていった。そこは、すでに大勢の人々でにぎわっていた。後援会やボランティアのメンバーといったところだろう。……そして、マスコミ各社。  報道陣は、蘭を舐め回すように見た。陽介は、彼らをさりげなく制したり、支援者らに挨拶したりしながら、チラチラとテレビ画面をうかがった。蘭も、息を詰めて情勢をうかがった。与党は、極めて劣勢だ。  ――まさか、下野(げや)(与党が政権を失い野党となること)なんてことは……。  午後八時。いよいよ開票が始まった。予想通り、野党候補たちの当確の速報が、次々と入ってくる。対する与党は、目玉候補や古参の大物ですらも、小選挙区での落選が報じられた。別のテレビは、与党の開票センターの様子を中継している。そこでは首相の今野や、党幹部らが、一様に険しい表情を浮かべていた。その中には、白柳勲の姿もあった。  ――勲の奴、どう思ってるんだろう……。  そわそわしながら見守ること、約三時間。ようやく、テロップが流れた。 『白柳陽介氏 比例で当選確実』

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