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 わあっと、大歓声が上がる。続いて、割れるような拍手と、万歳の嵐。そんな中、陽介はマイクの前に立った。報道陣が、我先にと取り囲む。 「皆様、本当にありがとうございました。今回は、苦しい戦いでしたが……」  陽介は、丁重に感謝の意を述べたが、表情はやはり硬かった。苦戦している仲間のことを考えると、手放しでは喜べないのだろう。蘭もまた、複雑な気持ちで聞いていた。嬉しいような、まだ不安なような……。その時、陽介と目が合った。すると彼は、手招きするではないか。  ――え、俺に出てこいって……? 「さあ」  古城が、笑顔でうながす。要領を得ないまま、蘭は陽介の隣へと連れ出された。陽介は、しっかりと蘭の肩を抱くと、こう宣言した。 「この場をお借りして、ご紹介申し上げます。私の番で、真のパートナーです」  一斉に、カメラのフラッシュがたかれる。蘭は、呆然としていた。こんな発表をするなんて、聞いていない。そんな蘭をよそに、陽介はおもむろに語り出した。 「選挙期間中は、私のプライベートなことで、再三お騒がせしました。その責任は、私にあります。彼を、番として表に出さなかったことが、大きな原因でした。でもそれには、理由がありました」  記者らが、身を乗り出す。陽介は、真剣な表情で続けた。 「私たちの間には、子供が産まれたばかりだったからです。私は彼に、子育てと家のことを優先してくれるよう頼みました。封建的と思われるでしょうか? 確かに、今回の選挙戦の争点は、オメガの方々の社会的地位の向上でした。しかし、社会進出だけが、彼らにとっての幸福なのでしょうか? 家庭に入ることを望むオメガの方も、たくさんいらっしゃいます。社会に出て働きたいオメガ、家庭に入りたいオメガ、両方の方々の思いを実現してこそ、真のオメガ保護といえるのではないでしょうか」

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