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 屁理屈で取りつくろった気がしなくもないが、確かにそのとおりだ。その場にいたオメガたちは、心を打たれたらしく、うんうんとうなずいている。陽介は、さらに続けた。 「私の番も、かつては勤めていましたが、退職して家庭に入る道を選びました。今彼は、しっかり家庭を守ってくれています。それだけでなく、この選挙戦でも、表だっての手伝いはしなかったものの、陰ながらアドバイスをくれ、私を精神的に支えてくれました。正直、彼の存在なくしては、この勝利はなかったものと考えています」  再度関係者に礼を述べて、陽介は会見を締めくくった。すると、記者たちが挙手をする。あれこれ聞きたくて、たまらないといった様子だ。 「日暮新聞です」  一番手は、稲本だった。 「今回、与党はかなり苦戦しています。お父上、白柳勲幹事長の週刊誌報道が大きな原因かと思いますが、その件についてはどうお考えですか」  手厳しい質問だが、稲本に攻撃的な雰囲気はなかった。顔には、軽い笑みすら浮かんでいる。陽介がどうかわすか見てみたい、くらいの感覚に見えた。 「確かに、一因となったかもしれません」  陽介は、あっさり認めた。 「ですがそのリスクを背負ってでも、私は自分の番を守りたかったんです。自分の番すら守れない人間がオメガの保護をうったえたところで、何の説得力もありません。まして、国の代表となる資格などない、と私は考えています……」  陽介はそこで、言葉を切った。テレビに、速報が流れたのだ。 『政権交代へ』  でかでかとしたテロップが表示される。アナウンサーは、興奮の面持ちで、野党第一党が単独過半数の議席を獲得する見込みだ、と告げた。

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