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「うん」  蘭は、力強くうなずいた。 「でも、楊貴妃に例えるのはほめすぎだ。恥ずかしいからやめろ」 「そうか? 楊貴妃が今生きていたとしても、蘭には敵わないと思うが」  陽介に、ふざけている気配はない。余計照れくさくなり、蘭は彼に、食卓上の皿を押し付けた。 「ほら、さっさと食え。お前、今日腹ぺこだろ?」 「ああ、いただくが……。君は? さっきから、ちっとも食べてないじゃないか」  陽介が、心配そうな顔をする。 「うーん、何だかここ二三日、食欲がなくて……。投開票前の緊張かなって思ってたんだけど」  結果が出たのだから、安心していいはずだと思うのだが。悠は、蘭の好物もたくさん作ってくれていたが、全く食指が動かなかった。それどころか、軽い胃のむかつきすらある。陽介は、そんな蘭の様子をじっと見ていたが、やがてためらいがちに口を開いた。 「なあ、蘭。間違っていたら申し訳ないが……。もしかして、妊娠してるんじゃないのか?」 「――え」  蘭は、ぽかんと口を開けた。確かにヒートはずっと来ていないが、もともと滅多にこない性質のため、違和感を覚えなかった。前回のヒートといえば……。  蘭は、はっとした。勲を家に上げ、襲われそうになった日。あの時、助けに来てくれた陽介と、避妊具なしで交わった。そういえばあれから、一ヶ月と少し……。 「あの時できたかも、と思ってはいたんだが」  陽介も、同じことを考えたようだった。 「妊娠している、していないでは、前に一悶着あったからな。あまりうるさく言うのもどうかと思って、控えていたんだ。でも蘭もそう思うなら、早めに医者に行った方がいい」 「うん、わかった……」  正直、まだ実感が湧かない。放心状態の蘭を見て、陽介はくすりと笑った。 「俺は、早速公約を破ったな。選挙が終わったら抱きつぶすと言っていたのに、体に障るから無理だな……。さあ、そうとわかったら早く休め。それでなくても、今日はくたくただろうに」

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