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 陽介に追い立てられるようにして、寝室へと向かう。ベッド脇に置かれた空のベビーベッドを見て、蘭はふと思った。 「本当にできていたら……、海に、弟か妹を作ってやれるな」 「ああ」  陽介は、嬉しげにうなずいた。 「勲先生、どう思うかなあ。お前の子なわけだし、可愛がってくれるといいんだけど……。市川の両親は、どうだろ。あの人たち、まだ孫がいないんだよ。血はつながってないけど、喜んでくれるかなあ……」  あれこれ考えていると、陽介はふっと顔をくもらせた。 「……差し出がましいようだが。沢木さんと話す気はないのか? 彼女にとっては、血を分けた孫ができるかもしれないんだぞ?」 「しつこいぞ」  蘭はむっとした。 「あんな奴、親と思っちゃいないって言っただろうが。……あ、そういえば」  蘭は、そこで思い出した。 「週刊誌、あの女の献金のことは扱わなかったよな。目玉候補だし、さぞかし取り上げるかと思ったのに……」  週刊誌が取り上げた献金ネタは、伊代のノートにあったごく一部だったのだ。ちなみに沢木薫子は、小選挙区で激闘の末落選し、比例でも復活できなかった。 「これから彼女、どうなるんだろ……、ん? 陽介?」  陽介は、黙って寝室を出ていった。怪訝に思いながら待っていると、彼はやがて、何かを手にして戻ってきた。蘭は、あっと声を上げそうになった。彼が握っていたのは、蘭が録音した盗聴器だったのだ。 「これは、週刊誌には提供しなかった」  陽介は、しれっと告げた。

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