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「おまっ……、あれだけ頼んだのに!」 「君の産みの母親を売ることは、俺にはできなかった」  陽介は、蘭の目を見てきっぱりと言った。 「あの時鞄にしまったのは、何も録音されていない、偽の盗聴器だ。君が沢木の部屋を盗聴したのは、これ。君がああやって強情を張ることを想定して、同じ機種のものを準備しておいた」  蘭は、あぜんとした。陽介が週刊誌に情報提供しに行く前、盗聴器を鞄に収めるのを、蘭は確かに確認した。あれは、偽物だったというのか。いつの間にすり替えたというのだ……。 「好きなように使ってくれと言っていただろう? 使わないのも一つの方法だ」  陽介は、けろりとそう告げると、機械を蘭に渡した。 「この処分は、君の判断に任せる」 「お前って……」  蘭は、言葉を続けることができなかった。自分の父親は、売ったというのに。蘭の母親である沢木は、売れなかったというのか……。 「やっぱり君は、傾国のオメガだな。国政に携わる者の決断に、影響を及ぼす」  陽介は、ちょっと笑った。 「ああちなみに、××建設の社長だけど。今警察が動き出している。父への贈賄と、過去のオメガ社員への強姦罪で、近く逮捕されるだろう」  えっ、と蘭は思った。かつて蘭が、記事に書こうとしていた人物だ。確かに、伊代のノートに名前はあったが……。 「もしかしてそれも、お前が?」 「ああ。少しでも蘭を苦しめた人間に、俺は容赦しない」  陽介が抱きしめてくる。腹に負担がかからないよう、慎重になっているのがわかり、蘭は思わず涙ぐんだ。  ――これほどまでに、愛されて。子供まで授かって。こんなに幸せで、いいんだろうか……。  その時、陽介のスマホが鳴った。 「こんな時間に、何だ……」  ぶつぶつ言いながら出た陽介だったが、さっと顔色が変わった。 「すぐ行きます」  短く告げて電話を切ると、陽介は蘭の方を向いた。 「伊代さんのボディガードからだ。彼女、病院へ運ばれた。危篤だそうだ」

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