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”
――何しに来やがった。
「悪い、火葬場へは行けない」
蘭は稲本に言い残すと、勲の方へ向かって駆け出した。陽介が、あわてて追いかけてくる。
「蘭、走るな!」
陽介が心配するのも、無理はない。取り急ぎ妊娠検査薬で調べたところ、陽性反応が出たのである。それでも蘭は、走らずにはおれなかった。
「どうして、あなたがここにいるんですか」
ようやくたどり着くと、蘭は勲をにらみつけた。
「古城さんから聞き出したよ」
淡々と答えると、勲は蘭が抱いている海に目を留めた。
「その子が、彼女が産んだ子か」
「あなたには関係ないでしょう。海は、僕と陽介の子です」
きっぱりと言い切った後、蘭ははっとした。勲は、慈愛に満ちた眼差しで海を見つめていたのだ。初めて見る、彼の優しい表情だった。
「そう言われるだろうとは思ったが……。一目、見たかったんだよ。彼女が産んだ、私の子をね。そして、彼女を見送りたかった。参列する資格がないのはわかっている。だから、ここからずっと見ていたよ」
勲の言葉とも思えない。だが本来、彼は政権交代で大わらわのはずだ。マスコミにも追われる中、リスクを冒してわざわざ来るだろうか。信じていいものか迷っていると、勲はぽつぽつと語り始めた。
「彼女だけだったんだよ。子供を欲しがったのはね。子供なんてスキャンダルになるだけと思っていたから、オメガが身ごもるたび、堕ろさせてきた。皆、あっさり従ったよ。私が怖いということもあるだろうが、誰も、私との子なんて欲しくなかったんだろう。そんな中で、彼女一人が産みたいと言い張った。無理やり堕ろさせようとしたが、今から考えると、かわいそうなことをしたと思ってね……」
「今さら、そんなこと言ったって!」
蘭は、カッとなった。
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