「あなたが果たせなかった夢を、俺が叶えてみせます。――だから、あなたは安心して、いつでも引退してくださっていいですからね？」 「生意気を言うな。二期目のペーペーが」 　即座に、勲が返す。でもその口調は、笑いを含んでいた。再び歩き出す勲を、蘭はあわてて追いかけた。 「勲先生！」 　言いながら、勲の前に回り込む。 「『M&Rシステムズ』へのご融資、ありがとうございました。おかげでうちの実家も、従業員たちも助かりました」 　脅しの手段だったとはいえ、助けてくれたことに変わりはない。蘭は、深々と頭を下げた。 「お借りしたお金は、できるだけ早くお返しします……」 　根は真面目な養父のことだ、一生かけてでも勲に返済するだろう。蘭も、それに協力するつもりだった。だが勲は、意外にもかぶりを振った。 「返してもらう必要はない」 「いえ、そんなわけには……」 　勲のことだ。また何かの取引の材料にする気だろうか、と蘭は警戒した。ところが勲は、こう続けた。 「懐妊祝いの代わりだよ。体に気をつけて、元気な赤ちゃんを産みなさい。……陽介」 　勲は、陽介をチラと見て微笑んだ。 「良い嫁をもらったな」 　それだけ告げると、勲は今度こそ立ち止まることなく、去っていった。