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18 至高の愛
「妊娠されていますね。五週です」
ふくよかな中年の女性産科医は、えびす様みたいな笑顔で蘭に告げた。思わず、ほうっとため息をついてしまう。検査薬で陽性とは出ていても、診察を受けるまでは、やはり不安だったのだ。違っていて、陽介をがっかりさせたらどうしよう、という思いもあった。
医師は、今後の注意点などの説明を、テキパキとしてくれた。赤ちゃんの状態は正常とのことで、安心する。
診察を終えて出てくると、海を抱いた悠が、緊張した面持ちで迎えてくれた。
「どうだった?」
やはり妊娠していた、と告げると、悠はパッと顔を輝かせた。
「よかったじゃん!」
「ありがとう。あ、海のこともサンキュな」
陽介は付き添いたがっていたが、どうしても抜けられない仕事があったのだ。そこで、海を預かるのも兼ねて、悠が代わりに来てくれたのである。
「赤ん坊の世話にも大分慣れてきたから、いいよ。ああそうだ、帰りの運転は僕がするね」
「え、そこまでしてもらわなくてもいいのに」
蘭は遠慮したが、体に障るとよくない、と悠は頑強に主張した。彼に甘えることにして、蘭は海を抱いて助手席に乗り込んだ。
「しかし、疲れたなあ。慣れない検査ばっかりで」
何気なく口にすると、悠はうなずいた。
「そうだよね」
蘭は、はっとした。悠も、妊娠の経験があることを思い出したのだ……。
「ごめん」
「別にいいよ」
悠は、けろりと答えた。
「もう僕、勲先生のことは吹っ切ったから」
「――そうなのか!?」
思わず横顔を見れば、悠は憑き物が落ちたような顔をしていた。負け惜しみや空元気ではなさそうだ。
「この前、七年ぶりに抱かれて、何だか気が晴れたっていうかさ。結局僕は、意地を張って、昔の想いを引きずり続けてただけのような気がする。だから、もう彼のことは忘れて、前を向くよ」
「よかった」
蘭はほっとした。
「悠がいい人と巡り会えるよう、応援してるよ」
ありがとう、と悠は微笑んだ。
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