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「きっと、いい相手が現れるよ」
蘭は、力強く言った。どうかな、と稲本は苦笑した。
「いずれにしても、しばらくは恋愛する気はしないな……。あ、伊代さんの四十九日は来てくれるか? お前らも、忙しいと思うけど」
「行くよ。陽介も、きっと行きたがると思う」
大きくうなずいた後、蘭は妊娠したことを告げた。こんな状況の彼に告げていいものか迷ったが、いずれは知らせないといけない話である。
「おめでとう、よかったな」
稲本は、あっさり祝福してくれた。
「そうと知っていたら、そのお祝いも持ってくるんだった……。あっ」
稲本は、ぽんと膝を打った。
「肝心なものを、渡し忘れるところだった。これ、市川に持ってきたんだ」
そう言って彼は、鞄から封筒を出した。
「何だ、これ?」
すると稲本は、言いにくそうに告げた。
「沢木薫子の出産について語ってくれた、同級生がいただろう。実は、その女性から俺に手紙が来たんだ。子供の父親の見当がついた、と言っている」
ドキン、と心臓が跳ねた。
「俺は、そこから先は読んでいない。市川、この手紙はお前にやる。お前の父親のことだ、お前が読むべきだ」
蘭は、震える手で封筒を受け取った。
「じゃあ俺は、これで失礼する。体に気をつけてな。陽介にもよろしく」
「うん……、ありがとう。お前も、頑張れよ」
稲本が、席を立つ。どうにか彼を見送ると、蘭は再びリビングに戻った。じっと、封筒を見つめる。自分の親は、市川の両親だ。沢木もその相手も関係ない、と思う。思うけれど……。
蘭は、封筒から手紙を取り出した。
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