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 ――おかしいな。  その翌日、蘭はスマホを見つめて悩んでいた。沢木から、いっこうに返信が来ないのだ。あれほど、向こうの方から会いたがっていたというのに。試しに電話もかけてみたが、出なかった。  ――どういうことだろう……。  まさか、蘭の懐妊の話をどこかで耳にして、真実を打ち明けるのが怖くなったのだろうか。考えたくはないが、つい悪い方に想像が膨らんでしまう。  いてもたってもいられず、蘭は『オメガの会』に電話してみた。名乗った上で、沢木が今日、本部に来ているか聞いてみる。 『白柳さん! はい、沢木ならおりますよ。少々お待ちくださいね!』  受付の女性は、愛想良く応対した。だが、しばらくして再び電話に出た声は、こわばっていた。 『申し訳ありません。あいにく、沢木は不在でございます』  ――いるって言ったのに。 「外出でもされているんですか? いつ戻られます? 急ぎの用があるのですが」 『当面、こちらには参りません。では、ごめんくださいませ』  一方的にそう告げると、女性は電話を切った。蘭は、しばらくスマホの画面を見つめていたが、やがて決意した。  ――待ち伏せして、捕まえるか。  受付は、明らかに嘘をついている。今日沢木が、本部にいるのは確かだ。『オメガの会』のそばで張っていれば、いつかは外に出てくるだろう。その時を狙って、何が何でも問い詰めるのだ。  ――でも、海はどうしようか。  身軽に動くためには、誰かに預けた方がいいだろう。蘭は試しに、悠に電話をしてみた。 「事務所の仕事はどう? さっそく昨日から働き始めた感じ?」 『いや、昨日は雇用の手続と、皆に紹介してもらっただけ。ていっても、みんな僕のことはよく知ってるけどさ』  悠は、アハハと笑った。 『仕事は、来週からだよ』 「本当か?」  蘭は、飛びついた。 「実は、頼みがあって。すまないけどこれから、海を預かってくれないかな? 用があるんだ。何時間かかるかわからないんだけど……」  遠慮がちに聞いてみたが、悠は快諾した。 『全然いいよ。どうせ今日は、家で一日ごろごろする予定だったし』 「ありがとう! 助かるよ」  蘭は、悠の親切に甘えることにした。

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