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”
――なかなか出てこないな。
近隣駐車場から、蘭は『オメガの会』の建物をにらみつけた。海を悠に預けてから、ここへ来てすでに五時間。もう夕方になるが、沢木が姿を現すことはなかった。
――こうなったら、帰宅のタイミングを狙うしかないな。
何だか、取材対象に張り付いていた記者時代を思い出す。蘭は、時間つぶしにスマホの検索画面を開いた。『近親相姦 子供』と打ち込んでみる。禁忌の子だとわかっていても、できることなら産みたかった。せっかく宿した新しい生命を、殺したくはない……。
検索結果には、予想どおり遺伝的な問題が山ほど並んだ。倫理的、道徳的問題もだ。蘭は、やや弱気になってきた。異母兄弟でも、リスクは高いのだろうか。検索ワードに、『腹違い 兄弟』も含めて検索しようとしたその時だった。
何台もの大型の車が、『オメガの会』本部の前にやって来たのだ。中から出てきたのは、黒いスーツに身を固めた、いかめしい顔つきの男たちだった。彼らは、いっせいに建物の中へと入っていく。そしてふと気づけば、マスコミらしき顔ぶれも周辺に見えるではないか。蘭は、はっとした。
――家宅捜索か?
陽介がネタを提供しなかったせいで、沢木薫子の献金問題は公にならなかった。とはいえ、勲をめぐるヤミ献金の捜査は進んでいる。その過程で、彼女が捜査線上に浮上した可能性は、大いにあった。
――止めてくれ。今逮捕されたら、あんたと話せないじゃないか。俺には、聞きたいことがあるんだ……。
蘭は、とっさに車から飛び出すと、報道陣をかきわけて建物内へ入ろうとした。だが、そんな蘭の肩を、背後からつかむ者がいた。
「止めろ」
振り返った先にいたのは、陽介だった。
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