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「あ……、うん。選挙後、確かにメッセ―ジは来てた。なかなか、会う勇気が出なかったんだけど……」
嘘をついても、見破られるかもしれない。蘭は、当たり障りなくそう告げた。そうか、と陽介は神妙な顔をした。
「タイミングが悪かったな……。まあ、取りあえず今日は、マンションへ戻れ」
「わかった……。あ、でも海を迎えに行かないと」
すると陽介は、先に蘭をマンションへ送った後、自分が迎えに行くと言った。
「相沢の所へ寄ると、大回りになるから。君は普通の体じゃないんだから、早く休んだ方がいい」
陽介は、あくまでも蘭の体調を心配している様子だ。蘭は、彼の言葉に甘えることにした。
一人先にマンションへ戻ると、蘭は夕飯の支度を始めた。自分自身はつわりでほとんど食欲がないが、陽介の分は作らないといけない。今夜のメインメニューは、彼の好きなトンテキだ。
――肉は、直前に焼くとして……。
下ごしらえをしたり、付け合わせのサラダを作ったりしていると、陽介が帰ってきた気配がした。
「お帰り。今夜は、お前の好きな……」
出迎えた蘭は、そこで言葉を失った。陽介は、これ以上ないくらい険しい表情を浮かべていたのだ。
「――ど、どうした?」
陽介は、無言で寝室に入った。海を寝かせて戻ってくると、彼はポケットから何かを取り出した。蘭は、はっとした。それは、蘭のスマホだった。
「車の隅に落ちていた。見るつもりはなかったが、たまたま手が触れたら、直前に君が見ていた画面が表示された。『近親相姦 子供 腹違い 兄弟』……。一体どういうことだ?」
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