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 蘭は、耳を疑った。 「お前……、本気か? 俺と番で、夫夫(ふうふ)でい続けるのか? おまけに、子供まで産んでいいと?」 「当然だ」  蘭は、へなへなと椅子に座り込んだ。 「子供は、俺も産みたかった。だから、産んでいいって言ってくれたのは、嬉しい。……でも、お前と夫夫でいるのは、俺には無理だ。それは、禁忌だ……」  陽介が、つらそうに顔をゆがめる。だが蘭は、思い切って続けた。 「だから俺は、こう考えてた。番を解消して、お前には新しい相手を見つけてもらおうって。伊代さんとの約束は破ることになるけど、海はお前とその相手に育ててもらおうと。問題は、俺が産んだ子のことだ……。番を解消されたら、俺は長くは生きられないだろうから。結局、途中で人手に渡すことになるのかな。沢木と同じことをするわけだけど……」  言葉の途中で、頬に鈍い痛みが走った。一拍遅れて、陽介に叩かれたのだと気づく。 「番を解消だと? 新しい相手を見つけろ、だと?」  陽介の瞳は、怒りに燃えていた。蘭は、あぜんとして彼を見上げた。アフターピルの服用が発覚した時や、浮気を疑われた時ですら、陽介が手を上げることはなかったというのに……。 「そんなことが許せるか! 君は、俺のただ一人の番で、大事な妻だ。一生一緒にいよう、そう言ったのを忘れたか!」 「でも! もし血がつながっていたとしたら、もう俺は、お前に抱かれることはできない。それで夫夫でいるなんて、無理だろうが!」 「無理じゃない」  陽介の、凜とした声が響く。 「君が罪悪感を覚えるというのなら、一生君に触れられなくても構わない。それでも俺は、君と一緒にいたい」

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