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”
「それで? 何でお前まで一緒に入ってんだ?」
三十分後、広い浴槽に海と三人で浸かりながら、蘭は陽介をじろりと見た。
「二人で協力したら、効率的だろう。海も、にぎやかな方が楽しいと思うぞ?」
間もなく生後三ヶ月になろうとする海は、いよいよ表情が豊かになった。確かにこの状況を楽しんでいるらしく、ニコニコ笑っている。が……。
「この手は何だっつーの」
陽介の手は、先ほどから蘭の肩や腰、太ももにかけてを、絶え間なく撫でさすっているのだ。海を抱っこしているせいで、思うように振り払えないのが悔しい。
「そりゃ、この二週間、君に触れられなかったんだぞ? こうやって風呂に入るのも、拒まれたし」
「根に持つなよ……。というか、一生触らなくても構わないんじゃなかったっけ?」
「意地悪を言うな」
陽介が、子供のように口を尖らせる。蘭はふっと笑うと、冗談だよ、と言った。
「でも俺、本当は嬉しかったんだ……。口では禁忌だ、新しい相手を見つけてくれ、なんて言ったけど、お前と別れたくなんてなかった。お前が、誰か新しいオメガを番にしてるとこを想像したら、泣けてきて……。だから、お前が一緒にいたいって言ってくれた時、胸がいっぱいになった。こいつ、怖いもんはないのかよって……」
蘭の背を撫でていた陽介の手の動きが、ふと止まる。見れば彼は、驚くほど真剣な表情をしていた。
「蘭。俺の辞書に、負けるという言葉はないんだ」
唐突な台詞に、蘭はきょとんとした。
「弁護士時代、裁判で負けたことはない。政治家になってからも、選挙や国会論争で負けたことはない……。そして、君への愛でもだ」
陽介は、じっと蘭の瞳を見つめた。
「俺の君への愛は、誰にも、何にも負けない。どんなアルファがオメガを愛する気持ちよりも、どんな夫婦の愛よりも深い。たとえ血縁関係があったとしたって、そんなもの蹴散らかしてやる。俺は、それくらいの覚悟だった」
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