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”
「陽介……」
返す言葉が、見つからない。これ以上の愛が、存在するだろうか……。
「蘭。愛してる」
蘭の背に置かれた陽介の手に、力がこもる。蘭は、そのまま引き寄せられた。瞳を閉じて、キスを受け入れる準備をする。
――二週間ぶり、だ……。
「うええええ」
しかし、今にも二人の唇が重なろうとした瞬間、派手な泣き声が響き渡った。見れば海は、赤い顔をしているではないか。
「やばっ。のぼせたかな?」
話に夢中になっていたせいで、うっかり長時間湯に浸けてしまった。蘭は、あわてて海を抱いたまま立ち上がった。
「先に上がるぞ! お前はゆっくりしてて!」
大急ぎでタオルにくるみ、寝室へと連れていく。その後はすぐにキッチンへ行き、濡れタオルを作った。冷たい水と共に、海の所へ持っていく。額や首筋を冷やしたり、水を飲ませたりしていると、ようやく海は落ち着いてきた。いつもどおり笑う姿を見て、蘭はほっと胸を撫で下ろした。
「ごめんな、ダメなママで」
「ダメじゃないぞ?」
気がつくと、陽介が寝室に入ってきていた。
「君、自分の体も拭いてないじゃないか。濡れたままの姿も色っぽいが、体を冷やすのはよくない」
ぽんとタオルを放られ、自分がびしょ濡れの素っ裸だったことに気づく。蘭は、あわててタオルを体に巻き付けた。
「のぼせたといっても、たいしたことはなさそうだな……。後は俺がやっておくから、君はゆっくりしてこい」
ベビーベッドをのぞきこみながら、陽介が言う。彼に任せて、蘭は再び浴室へ戻った。髪を乾かし、服を身に着けて寝室に入ると、陽介はベッドの端に腰かけていた。何やら、真剣な表情だ。
「どうかしたか? 海、やっぱり……」
「いや、海はもう大丈夫だ」
陽介は、蘭をじっと見た。
「君、本当の父親を知りたくはないか?」
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