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”
「――何だって!?」
蘭は、大声を上げた。
「いつの間に? ていうか彼女、これまで弁護士は付いてなかったのか?」
「いや、付いていたぞ。『オメガの会』の顧問弁護士がな。無能な奴だ。俺が最初から付いていたら、そもそも勾留決定なんぞさせなかった」
陽介は、ぶつくさ言った。
「じゃあ何、お前は仕事を横取りしたわけ?」
「人聞きの悪いことを言うな。第一それは、職務基本規程で禁じられている」
陽介は、ちょっと口を尖らせると、説明し始めた。
「実は沢木さんには、逮捕直後にコンタクトを取った。弁護士としてお力になりたい、と打診したんだ。だが彼女は、断った。顧問弁護士がおりますからと。でもそれは、口実だと思う。実刑判決が下るかはわからないが、逮捕された以上、もう君と関わるべきではないと考えたんだろう。そのパートナーである俺ともね」
ちっとも知らなかった。唖然として聞いていると、陽介はにっこりした。
「ところがつい先日、沢木さんから依頼があった。弁護士を交代したいとね。顧問弁護士に不満があるとのことだったが、これまた口実に違いない。というのは、俺は最初の時点で、彼女にこう告げておいたんだ。逮捕・勾留となった場合、一般の人間との面会は極めて制限されますよ、と。時間は短い上、捜査官が立ち会う。重要な話や、センシティブな話はできないでしょう。さらに接見禁止処分が下ったら、一切誰とも、面会はできなくなりますよ。その点弁護士なら、いかなる制約も受けず、あなたと面会して話すことができますが、と」
「まさか……」
ああ、と陽介はうなずいた。
「沢木さんも、心は揺れたと思う。でも、いつか君に真実を打ち明けたくなった時のことを考えて、決心したんだろう。俺を通じて、君に話を伝えるためにね」
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