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「で、でもお前、議員活動も忙しいのに……。それに、沢木の弁護なんかして、世間がどう思うか……」  言うべきことは、他にある。わかってはいたが、蘭はとっさにそう言った。 「なに、楽勝さ。弁護士業を兼務している議員は、他にもいる。もし理由を問われたら、オメガ保護を理念に掲げる者として、『オメガの会』代表を守らねばと思った、そう言い訳するつもりだ」  陽介は、けろりと言うと、じっと蘭を見すえた。 「さて、俺は早速明日、沢木さんに会いに行くつもりだが……。彼女から聞きたいことはないのか? 俺は、何時間でも彼女と話せるんだぞ?」 「ない!」  蘭は、ふるふると首を横に振った。 「父親のことなんて、知りたくないから! 弁護を引き受けたのは、お前の勝手だ。俺は、関係ないからな!」  それだけ言い捨てると、蘭はベッドに潜り込み、布団をかぶった。やれやれというため息をつきながら、陽介も隣に横になる。しばらくすると、彼は寝息を立て始めたが、蘭はなかなか眠れずにいた。頭の中では、盗聴器の向こうから聞こえてきた沢木のすすり泣きが、こだましていた。  ――あの子が産まれた時は、本当に嬉しかった……。  ――どうしているのか、ずっと気がかりだった……。  蘭は、陽介を起こさないよう、そっとベッドを抜け出した。自室へ行き、棚から分厚いアルバムを取り出す。施設時代、そして市川家に引き取られてからの蘭の写真を収めたものだ。蘭は、何時間もかけて、そこから数枚を選び取ったのだった。

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