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 翌朝、陽介は沢木のことについて、もう何も言わなかった。朝食を食べている彼に向かって、蘭は何気なく尋ねた。 「今日は、勉強会のある日だったよな?」  陽介は、若手議員が中心メンバーの、勉強会に所属しているのである。 「ああ、午前中いっぱいかかる。その後も人と会ったりするから……、沢木さんの所へ行けるのは、夕方になるな」 「そうか」  何事もなかったかのようにうなずくと、蘭はキッチンへ入った。戻ってきた蘭を見て、陽介は目を丸くした。 「弁当? 作ってくれたのか?」 「うん。議員活動に弁護士活動まで加わったら、大変だろ? 過労で倒れられたら困るからな。これを食って、元気を付けろ」  ハンカチで包まれた弁当箱を押し付けると、陽介は頬を緩めた。 「倒れたりはしないけれど……。でも、嬉しいな。こんなことしてくれるの、初めてじゃないか?」 「見た目はいまいちだけど、栄養は満点だぞ」  家での食事と違い、弁当は他人の目にも触れる。何とか見られる外観になるまで、蘭はひそかに猛練習したのである。 「ありがとう。……ふふ、楽しみだな」  蘭の頬に軽くキスすると、陽介は機嫌良く出て行った。蘭は、チラと時計を見ると、スマホを取り出した。昨夜のうちに調べておいたサイトを、もう一度確認する。 『逮捕された人と面会する時のルール』

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