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”
面会室に連れてこられた沢木は、蘭を見て信じられないといった表情を浮かべた。
「蘭さん……? あ、ありがとうございます……。わざわざ来てくださって」
陽介の当初の推理どおり、沢木は、母親と名乗る勇気が出ないようだ。取りあえずは、他人を決め込むつもりのようである。アクリル板越しに見る彼女は、少しやつれていた。かつてマスコミに取り上げられ、華々しく活躍していた面影はない。心配な気もしたが、なんせ面会時間はわずか十五分と、限られている。蘭は、単刀直入に尋ねた。
「今日は、あなたにお聞きしたいことがあって来ました……。僕の父親についてです」
沢木が、息をのむ。
「――知って……!?」
はい、と蘭はうなずいた。
「あなたが高校時代に僕を産んだことは、知っています。ただ、父親が誰なのかだけは、どうしてもわからなかったんです」
沢木は一瞬ためらったが、時間制限のことを思いだしたのだろう。やや早口で、語り始めた。
「バイト先で知り合った人よ。当時、私の家は経済的に苦しくて、コンビニでバイトしていたの。そこにお客として来ていた、アルファの男性です。私よりは、一回り上だったわ」
バイト先とは盲点だった。蘭は、意外な思いだった。それなら、学校の友人も知らないはずだ。そういえば、以前稲本が送ってくれた報告書にも、沢木の家は母子家庭で、彼女は高校時代バイトに明け暮れていた、とあった。
「その人とは……」
どうして別れることになったのだろう。遊ばれて捨てられたのだろうか。詳しく知りたかったが、さすがに捜査官が同席している状況では聞きづらかった。沢木は、そんな蘭の心を読んだようだった。
「彼なら、もう亡くなりました。ごめんなさい、会わせてあげられなくて」
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