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「驚いたぞ。突然面会に行くなんて」
その晩、帰宅した陽介は、開口一番言った。
「全く、君には驚かされてばかりだな……。でも沢木さん、嬉しがっていたぞ。君、写真を差し入れたんだって? 泣いて喜んでいた」
「そっか。ならよかった」
何だか、目を合わせるのが照れくさい。蘭は、下を向いて洗い物をしながら返事をした。すると陽介は、こう続けた。
「彼女、養護施設に君を見に行ったことがあるそうだ」
蘭は、思わず顔を上げた。
「本当か? いつ?」
陽介は、言いづらそうに顔をゆがめた。
「君が十二歳の時だそうだ。ずっと気になっていたが、なかなか勇気が出なかったそうで。やっと決心して行ってみたら、君の姿はもうなかった、と」
蘭が市川家に引き取られたのは、十歳の時だ。少し遅かったということか。蘭は、複雑な気持ちになった。
「ここからは俺の想像だが、沢木さんはその時、君を引き取るつもりだったんじゃないかな。当時彼女は二十九歳、起業した会社が軌道に乗り始めた頃だった」
「勝手だな。自分の都合が悪い時は捨てて、都合が良くなったら引き取るってか?」
蘭は、ややむっとしたが、陽介はなだめるように言った。
「まあ、そう言うな……。沢木さんは、蘭のことを大切に思っていたと思うよ。というのも、彼女、君の父親のことを本当に愛していたそうだから。君が聞きに行ったというから、俺もいろいろ情報を仕入れてきたが。どうだ、聞くか?」
「……うん」
蘭は洗い物を中断すると、ダイニングテーブルを挟んで陽介と向かい合った。
「君の父親は、沢木さんがバイトしていたコンビニの常連客だった。職業は……」
陽介は、なぜかにっこりした。
「フリーのライターだったそうだ。ちなみに、前職は新聞記者」
蘭は、口をあんぐりと開けた。
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