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「――! 本当かよ……?」 「ああ。俺もびっくりした。沢木さんもな。息子の君も新聞記者の道へ進んだなんて、血は争えない、と驚愕していたよ」 「どうして亡くなったかは、聞いた?」 「それも、聞いて驚くなよ」  陽介は、身を乗り出した。 「表向きは、交通事故だ。でも、それには疑問が残った。彼は、フリージャーナリストとして、政治家の汚職を暴こうとしていたそうなんだ。それで消されたのではないか、と沢木さんは推測している」  何と、父親も自分と同じようなことをしていたのか。蘭は、信じられない思いだった。 「沢木さんが高校を卒業したら、二人は番になり、結婚する予定だった。でも彼は亡くなり、その後沢木さんは妊娠がわかった。愛する男の忘れ形見が欲しいと、彼女は必死の思いで君を産んだ。しかし、ただでさえ母子家庭で困窮していたのに、赤ん坊まで養う余裕はとてもなかったようだ。そこで泣く泣く、施設に託した……」 「……」  アルファには頼らず一人で生きていきたい、沢木はそう言っていた。亡くなった彼以外の番には、なるつもりがなかったのだろうか……。陽介は、蘭にメモを差し出した。 「お父さんの墓の場所だ。参るか?」  うん、と蘭は受け取った。 「お前も来てくれるか?」 「もちろん」  陽介は微笑んだ後、そうそう、と真顔になった。 「俺の父との関係だけれど。確かに当時、交流イベントで知り合い、政治を志すきっかけにはなったようだ。だが、男女の関係は一切なかったそうだ。それは、今に至るまでそうらしい」 「……そうだったのか?」  にわかには、信じがたかった。父親疑惑は晴れたにしても、現在は愛人関係ではないのか。盗聴した会話での、親しげな呼び方からしても……。

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