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 陽介は、おかしそうに笑った。 「沢木さん、言っていたよ。勲先生は信用ならない、弄ばれるのがオチだから、決してそういう仲にならないよう気をつけていたって。ただ、政界の人間とのパイプは欲しかったから、交友関係だけは続けていたそうだ。長い付き合いだから、彼女が一人で出産したのも父は知っている」  蘭は、拍子抜けした。親しげに呼んでいたのは、単に昔なじみだったからか。 「彼女、どれくらいの罪に問われるんだろう」  蘭は、ぽつりと言った。陽介が、優しく答える。 「起訴は、もう免れないな。本人も、罪を認めているし……。でも俺の手腕で、軽い処分にしてみせる。少なくとも実刑は阻止するから、心配するな」 「……」 「沢木さんは、こう話していたよ。『オメガの会』も、元々は純粋に、オメガの人たちを支援する目的で設立したらしい。だが、活動には金が要る。資金繰りに奔走するうち、つい悪事に手を染めてしまった、と……」  ふと、いつかの沢木の台詞がよみがえった。 『私たちオメガが暮らしやすくなるのもならないのも、とにかく政治次第なんです……』  自分の口癖と同じなんて皮肉だ、とあの時は思ったものだが。あれも、親子ならではということか……。 「それにしても、どうして急に気が変わったんだ?」  陽介が、話を戻した。 「昨夜までは、あんなに強情を張っていたじゃないか。父親のことなんて知りたくない、関係ないって」  蘭は、陽介を見つめた。 「お前のおかげだよ」

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