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「驚いただろう?」  蘭は、くすくす笑った。八ヶ月前、沢木との初めての面会の後、蘭はさぼっていた妊婦健診に出かけた。そこで、二卵性双生児がお腹にいると告げられたのである。蘭はそのことを、出産まで陽介に内緒にしていた。 「ああ、驚いたとも。これだったんだな、内緒にしていたことというのは……。何で、前もって言ってくれないんだ。いろいろ準備ができたのに」  陽介が、やや不満げな顔をする。 「サプライズだって。それに双子だなんて言ったら、お前、五人分くらいのベビー用品を買いこみそうだし」  図星だったのか、陽介はぐっとつまった。 「おお、目元が蘭にそっくりだ。やっぱり女の子は、可愛いねえ」  そう言って目尻を下げるのは、蘭の養父だ。横では、養母もうなずいている。彼らの実子の家には、少し前に男の子が産まれ、養父は『M&Rシステムズ』を継がせると張り切っていた。とはいえ、女児の誕生にも、彼らは喜びを隠せない様子である。 「長居すると、蘭が疲れるかもよ。そろそろ失礼しましょう」  気を利かせたのか、養母はそう言い出した。 「名残惜しいなあ。でもまた、来るからね」 「私も帰るわね。蘭さん、お大事に」  養父母と陽介の母は、そろって帰って行った。残されたのは、蘭と陽介、海、そして悠だ。蘭は、悠に礼を述べた。 「妊娠中は、いろいろありがとうな。助かったよ」  つわりがひどかった蘭のため、悠は食べやすいメニューを工夫して作ってくれたのだ。大したものじゃないよ、と悠が謙遜する。 「僕も、いい勉強になったし。あのメニュー、早速自分にも作らなきゃ」 「――え?」  蘭と陽介は、思わず悠を見つめた。 「僕も、妊娠がわかったんだよね。ということで、結婚します。いわゆるデキ婚!」  悠は、得意げに左手をかかげた。その薬指には、いつの間にやら指輪がはまっているではないか。

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