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「稲本、久しぶり!」 「ああ、実はさっきも来たんだけどな。大人数だから遠慮したんだ」  そう言うと稲本は、陽介を見てにやりとした。 「チラッと会話が聞こえたけど、お前のお袋さんて、なかなか面白そうな人だな。何か、市川に似てる気がする。……お前、マザコンか?」 「そんなわけあるか! 大体、蘭の方がずっと魅力的だ」  陽介が、間髪を容れず言い返す。そりゃそうだ、と稲本も同意した。 「市川、体調はどうだ? 双子だって? ご苦労さんだったな」 「うん、もうすっかり元気。早く退院したいくらい」 「そりゃよかった」  稲本は、ほっとしたように微笑むと、ベビーベッドをのぞきこんだ。 「可愛いな。名前は? もう決めたのか?」 「お兄ちゃんは、望大(みひろ)。望みに、大きいと書く。妹は、明希(あき)。明るい希望だ」 「どっちもいい名前だ。大きくて明るい希望か」  稲本がうなずく。陽介が補足した。 「蘭が考えたんだよ。というか、俺は双子と知らされてなかったから、パニックになってな。一人分しか考えてなかったから……。でも、蘭の考えた名前が気に入ったから、そのまま名付けた」 「お前は、市川の意見は全部尊重するだろうが。ったく、完全なかかあ天下だな」  からかうように言うと、稲本は海に話しかけた。 「なあ、海?」 「カカア?」  海が、声を張り上げる。止めろ、と陽介は顔をしかめた。 「何でも、大人を真似たがる時期だから……。それでなくても今日は、塀の中だの、デキ婚だの、ヤバい言葉が飛び交ってるんだ」  ハイハイ、と肩をすくめると、稲本は蘭にギフトの箱を手渡した。 「ほれ、出産祝いだ」 「ありがとう……って、これ?」  それは、カフェオレの詰め合わせだった。 「ベビー用品は、他からどっさりもらうだろうし。市川に、お疲れの意味も込めて。カフェオレ、好きだろ。ちゃんとカフェインレスにしといたからな」  蘭は、思わず顔をほころばせた。 「美味そう! いろいろ種類もあるし。嬉しいな」 「お祝いは、それだけじゃないぞ。沢木さんの情報がある」 「――一体、何?」  蘭は、ドキリとした。 

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