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番外編:白柳明希のゆううつ・その5
「で、でもだからって、パパとママの子じゃないってことには……。それに、血は繋がってるって、パパ確かに言ってたよ?」
「ああ。それで俺は、こう推理した」
望大お兄ちゃんは、静かにわたしの目を見つめた。
「なあ、明希。海兄さんて、父さんの方のじいちゃんによく似てると思わないか」
「は? そりゃそうでしょ。パパって、おじいちゃん似だもん」
パパのお父さん、勲おじいちゃんも、元政治家だ。結構偉い役職にあったらしいけど、収賄の罪で捕まった。今はもう、出所したけどね。
「俺はさ、海兄さんは、じいちゃんの子じゃないかと思うんだ」
「――えーっ」
わたしは、大声を上げた。
「じゃあ、ママが不倫したってこと? おじいちゃんと?」
そんなこと、あり得ない。なんだかんだ言っても、ママはパパ一筋だもん……。すると望大お兄ちゃんは、あわてて否定した。
「いや、そうは思わない。母さんは、そんなことする人じゃない。……それに、仮にじいちゃんが無理やりに……とかしたら、父さんがおとなしくしていると思うか? じいちゃん、とっくに墓の中だぞ」
「まあ、確かに」
ママにそんな真似をしたら、たとえおじいちゃんだって、パパは生かしてはおかないだろう。
「母親は、俺たちの母さんじゃないと思う。俺の推理では、じいちゃんと他の誰かの間にできた子を、俺たちの両親が引き取ったんじゃないかって」
そんな突拍子もないことがあるだろうか。でも、それなら理屈はとおる気がした。兄妹じゃないけど、血は繋がっていることになる……。
「明希。実は俺、母さんにそれとなく、この推理を話したんだ」
「え、そうなの? ママ、何て?」
「……叱られたよ」
望大お兄ちゃんは、苦笑した。
「記者は確かに、真実を突き止め世間に公表する仕事だ。でも、全てをさらしていいわけではない。誰にだって、触れられたくないことはあるだろう。それは、そっとしておいてあげないといけないんだ、って」
「そうだったんだ……」
「だから俺は、二度とこの話は口にしていない。たまたまお前が悩んでいたから、話したけどな。お前も、誰にも言うなよ」
「うん、わかった……」
うなずきながらも、わたしは思った。きっと望大お兄ちゃんの推理は当たってるんだろうって……。
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