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番外編:白柳明希のゆううつ・その6

 海お兄ちゃんが留学を決めたのは、それからわずか一週間後のことだった。アメリカの高校で、三年間学んでくるのだという。急な話に、わたしはびっくりした。確かにパパは、家から出すって言ったけど。まさかお兄ちゃんが従うとは……。 「アメリカの政治を学んできます。これからのこの国の政治に必要なのは、グローバルな視点です」  海お兄ちゃんは、パパを見つめてそう告げた。パパに対抗しているのは、明らかだった。わたしには、こう言った。 「抑制剤をしっかり携帯して、変なアルファに狙われないようにしろよ。気をつけてな」 「うん……」  うなずきながらも、わたしはこう思っていた。  ――ごめんね、お兄ちゃん。わたしにはもう、番にしてほしいアルファの人がいるんだ……。  その日わたしは、悠さんの家を訪れた。料理を教えてほしい、と言うと、悠さんはははんという顔をした。 「好きな男の子でもできたんだ?」 「そうじゃないけど! うちは、パパもママも忙しいから。少しは手伝いたくて」  悠さんは、妙に勘の良い人だ。『好きな人』が誰だかバレないようにしよう、とわたしは必死に弁解した。 「ハイハイ、そういうことにしておこう」  幸いにも悠さんは、それ以上突っ込むことなく、簡単な料理を教えてくれた。彼はすごく料理上手だから、勉強になる。 「熱心だね」  悠さんは、感心したようだった。  ――海お兄ちゃんも望大お兄ちゃんも、目標を持って頑張っている。わたしも、見習わなくちゃ……。

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