253 / 279
番外編:白柳明希のゆううつ・その6
海お兄ちゃんが留学を決めたのは、それからわずか一週間後のことだった。アメリカの高校で、三年間学んでくるのだという。急な話に、わたしはびっくりした。確かにパパは、家から出すって言ったけど。まさかお兄ちゃんが従うとは……。
「アメリカの政治を学んできます。これからのこの国の政治に必要なのは、グローバルな視点です」
海お兄ちゃんは、パパを見つめてそう告げた。パパに対抗しているのは、明らかだった。わたしには、こう言った。
「抑制剤をしっかり携帯して、変なアルファに狙われないようにしろよ。気をつけてな」
「うん……」
うなずきながらも、わたしはこう思っていた。
――ごめんね、お兄ちゃん。わたしにはもう、番にしてほしいアルファの人がいるんだ……。
その日わたしは、悠さんの家を訪れた。料理を教えてほしい、と言うと、悠さんはははんという顔をした。
「好きな男の子でもできたんだ?」
「そうじゃないけど! うちは、パパもママも忙しいから。少しは手伝いたくて」
悠さんは、妙に勘の良い人だ。『好きな人』が誰だかバレないようにしよう、とわたしは必死に弁解した。
「ハイハイ、そういうことにしておこう」
幸いにも悠さんは、それ以上突っ込むことなく、簡単な料理を教えてくれた。彼はすごく料理上手だから、勉強になる。
「熱心だね」
悠さんは、感心したようだった。
――海お兄ちゃんも望大お兄ちゃんも、目標を持って頑張っている。わたしも、見習わなくちゃ……。
ともだちにシェアしよう!