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番外編:白柳明希のゆううつ・その7

 わたしは、教わった料理を繰り返し練習した。会心の出来と思えるくらいになると、わたしはそれを持って稲本さんの家を訪れた。彼は、小さなマンションで一人暮らしをしているのだ。  チャイムを鳴らすと彼は出てきたけど、わたしを見ると困惑顔をした。 「お父さんかお母さんに、用事を言いつかったのかな?」 「いえ。わたしが稲本さんに話があって、来ました。お邪魔していいですか?」 「いや、それは……。今度、ご両親やお兄ちゃんたちと一緒の時にしてくれないか」  稲本さんは、早くもドアを閉めようとする。わたしは大きな声を上げた。 「どうしてそうやって、わたしだけ差別するんですか! ひどいです。わたしが、オメガだからですかっ」  その時、マンションの住人が通りかかった。稲本さんは困ったように周囲を見回すと、「入って」と言った。 「……やっぱり、市川の娘だな……」 「え? 何ですか?」 「いや、何でも」  室内は、いかにも男の人の一人暮らしって感じで、ドキドキする。リビングに向かう途中、通り過ぎた部屋からは、チラッと仏壇が見えた。亡くなった番の人のものだろう。胸が、チクリと痛む。  わたしをリビングに通すと、稲本さんはココアを出してくれた。自分はエスプレッソだ。何だか、子供扱いされている気がする。 「で、話というのは?」  わたしは、思い切って聞いてみた。 「わたしが小さい頃、大きくなったらお嫁さんになるかって聞いたの、覚えてますか?」  稲本さんは、盛大にエスプレッソを吹いた。 「何を、いきなり……」 「いきなりじゃありません! わたし、すごく嬉しかったんです。ずっとその言葉、覚えてました。それで、その……。今でも、同じ気持ちでいてくれますか?」  真剣に、稲本さんの目を見つめる。彼は、スッと視線をそらした。 「どうして、そんなことを聞くの」 「だって! 稲本さん、最近変わったから……。お兄ちゃんたちとはニコニコ話すのに、わたしのことは、明らかに避けてるじゃないですか。嫌われたのかなって、さびしかったんです。わたしが、オメガだからかなって……」 「……半分、正解だ」  稲本さんが、静かに答える。わたしは、ドキリとした。

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