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番外編:白柳明希のゆううつ・その8

 ――半分て、どういうこと……? やっぱりわたし、嫌われてたの……? 「明希ちゃん」  稲本さんは、ようやくわたしを見た。 「俺が君に対する態度を変えたのは、君がオメガだからだ。だから半分正解と言った」  ズキン、と胸が痛んだ。もしかしてとは思ったが、はっきり言われるのはきつい。  ――彼に限って、オメガを馬鹿にしたりしないと思ってたのに……。 「君はまだ、十五歳。バースについて、十分な知識があるとは言えない。俺はアルファだ。オメガのフェロモンに当てられたら、理性では欲求を制御できなくなる。意志に反して、君にひどい真似をする可能性も否定できない……。だから用心のため、避けていた」  え、と思った。もしかして稲本さんは、わたしのことを大事に思ってくれている……? 「誤解させたなら、悪かった。君を嫌ったりはしていないよ。むしろ、可愛いと思っている」  体温が上昇していくのがわかる。わたしは、彼の言葉を反芻した。  ――嫌っていない。可愛いと思っている……。  すごく、嬉しい。でもわたしは、もっと明確な答を知りたかった。 「それは、友達の娘としてってことですか?」  身を乗り出せば、稲本さんはうろたえたようだった。 「わたしは、小さい頃からずっと稲本さんのことが好きです! 稲本さんがママを好きだったのは、知ってます。でも、わたしにはわたしの魅力があると思うんです。……ほら、見てください。稲本さんのために、頑張って作ったんですよ」  わたしは、持参した料理を突きつけた。 「子供だと思って、見くびらないでください! もう発情期だって迎えました。いつでも、番にしてもらって……」 「わ、わかった! 明希ちゃんの気持ちは十分わかったから」  エスカレートするわたしをなだめるように、稲本さんはこくこくとうなずいた。血は争えないな、というつぶやきが小さく聞こえた気がする。 「でもな、番だの何だのは早すぎる。そうだな……。あと、五年待とうか。その間、きっといろいろな男の子と出会うことだろう。それで見る目を養って……」 「五年ですね! わかりました」  わたしは、すっくと立ち上がった。 「わたし、絶対心変わりなんてしません。だから稲本さん、五年後には必ず、わたしを番にしてください。約束を破ったら、許しませんからね!」

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