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番外編:白柳明希のゆううつ・その9

 その日帰宅したママは、夕食の準備が整ったキッチンを見て、目を丸くした。 「もしかして、明希が作ったのか?」 「うん。ママ、お仕事大変だろうと思って」  わたしは、ママの元に駆け寄ると、ぺこりと頭を下げた。 「ママ、ゴメンね。嫌な態度取っちゃって。実はね……」  稲本さんが好きなのだ、と思い切って打ち明けると、ママは意外にも冷静に受け止めてくれた。 「そうだったのかあ。確かにあいつは昔、ママに惚れてたけど。でも今は、いい友達だよ。パパがいろいろ気を回して、ヤキモチ焼いてるだけ。稲本の方も、それを知っててからかってる感じかな」 「何だ」  ほっとするわたしを見て、ママはにこりと笑った。 「いんじゃね? ちょっと年は離れてるけど、ママは応援するよ。あいつ、マジでいい奴だからな」 「本当!?」  まさか、そう言ってくれるとは思わなかった。わたしは、飛び上がって喜んだ。 「ああ。でも、パパには内緒にしとけよ。稲本に限らず、恋愛絡みのことはな。あいつ、パニクって片っ端から牽制して回るだろうから。下手したら明希、一生結婚できなくなるぞ」  ママが苦笑する。わかった、とわたしはうなずいた。 「よーし。女同士、じゃないけど、母親と娘の秘密だ」  ママと、指切りを交わす。わたしは、心の中で誓った。五年の間に、とびきりいい女になってやると……。  それから五年後。歴代でトップクラスと言われた、有能ぶりで有名な時の総理は、突然公務を三日間欠席するという事態を起こした。何やら、非常にショックな出来事が原因と言われている。それは、彼の長年にわたる在職期間の、唯一の汚点となった。しかし彼の愛娘は、初恋を成就させてご満悦だったそうである。  さらに同じ頃、海を越えた向こうの国にも、悲嘆に暮れる青年が一人いた。彼は、自分を追ってやって来た二つ年下の幼なじみの少女に誘われる形でずるずる付き合い、結婚することになる。なお、彼の出生については口にしないことが家族の不文律とされ、彼自身は何も知らないまま、平和な人生を送ったのであった。                             白柳明希のゆううつ:おわり                      この後は、おまけで番外の短いSSが続きます。

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