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第3話

 形ばかりといってよいだろう意味のない会議は一週間に一度宮殿の大広間で行われる。その内容のほとんどが税を軽くしろだの、己が一族に地位や役職を賜りたいだのというものばかりだ。税を軽くというのは一見民を思っての発言のように聞こえるが、軽くしたところで領主である貴族の懐が温まるだけで搾り取られる民の税はまったくと言ってよいほど変わりはしない。この玄栄にあって税が重くなることは多々あれど、軽くなったためしなどないのだから。  だが税にしろ人事にしろ、すべては皇帝である栄徹の気分次第だ。重用されるのは賢く秀でた者ではなく、栄徹を楽しませ耳に心地よい言葉をスラスラと言える者。この場に出席するよう義務付けられている栄鷲は馬鹿馬鹿しいと小さく鼻をならし、早くこの時間が終わらないかと何度も時計を確認するが一向に時間は経たない。これが兄の夕栄であれば何かしら考え事を巡らせるのだろうが、生憎夕栄はこの場への参加は許されていない。ただただ裏が見え隠れする嘆願やおべっかを聞くだけのこの時間は父にとっては楽しく心地よいものであるのかもしれないが、栄鷲は退屈で退屈で仕方がなかった。  何度も何度も欠伸を噛み殺しながら栄鷲は窓の外に視線を向けた。ここからは広大な庭にある水場が見える。そこにはよく夕栄がおり、栄鷲の予想通り今もまた夕栄が独り佇んでいた。 (また独りか……)  いくら宮殿の敷地内とはいえ、とても皇子としての待遇ではない。剣の腕はそれなりにあると自負している栄鷲とて周りには精鋭たる護衛と世話をする侍従が常に付き従っているというのに、武芸はあまり得意ではない夕栄は誰も連れず独りでいることの方が多い。それが今の夕栄を物語っているのだと思うと栄鷲は苛立ちに胸をざわつかせるのだ。  栄鷲は力を追い求める男だ。それゆえに政などよくわからない。兄はそんな栄鷲に何度も政を教え、多くを学ばせようとするが、そのすべてが子守歌に聞こえ眠くなってしまう。そしてその度に思うのだ。それほどに熱心ならば、夕栄が皇太子になればよいのに、と。  栄鷲には、兄の瞳にこの国がどう映っているかなどわからない。わからないが、例えそれがどんなものであったとしても夕栄の命ならば自分は迷うことなく頷き、彼の指し示す道を切り開くために剣を振るい続けるというのに。だがそんな栄鷲の考えをどこかで見透かしているのか、夕栄はそう思う度に言うのだ。「あなたが次の皇帝になるのです。賢く、強い皇帝に」と。  考えれば考えるほど胸がざわめき、苛立ちが募る。舌打ちを一つ零した栄鷲はもう良いだろうとばかりに席を立ち大広間を出た。甘言に酔いしれている父も、父に取り入ろうとする貴族たちも栄鷲が席を外したところで気にも留めまい。大広間を出た瞬間に扉の外で待機していた護衛の李光や侍従たちがゾロゾロと無言で後ろに付き従うが、それも気に留めず栄鷲は真っ直ぐに庭へと向かった。

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