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第6話

 荒れた土が広がり、道端には糞尿があちこちに放置されては異臭を放っている。ここ数年雨が少なく、煌々と輝く太陽の光に作物は枯れ飲み水すらなく人々はただただ喉を喘がせた。貴族は莫大な金を払って酒や果実で喉を潤すから悲嘆にくれることはない。彼らは決して足元を見ようとはしないからだ。  飢えと渇きで家畜が死んだ。ならばせめて糧にと思うが、やせ細った家畜は骨ばかりでとても飢えをしのぐことはできない。家族を食べさせるために家財を売り、最後には家さえも手放した。だがそれでも飢えるばかり。次第に立ち上がることができなくなった。腕の中で幼子が泣かなくなった。横たわれば起き上がることができなくなった。そうして物言わず朽ち果てネズミや野犬が群がった。  疫病が蔓延する。だが薬はおろか医者に診せることさえできない。生き残るのは人を人とも思わず高笑いをする貴族ばかり。  生きなければ。生かさなければ。そう思う人々は皆最後の力を振り絞って北へと重い足を進める。北州と呼ばれるその最北の地はまだ食べ物があり、飲み水があった。人々の暮らしにほんの僅かではあるものの余裕があった。その地を治めるのは初老であろう双子の当主、明 亜侠(めい あきょう)と明 清侠(せいきょう)である。領地を持つ貴族として明家はさほど地位が高いわけではなく、皇帝である栄徹からも軽んじられていた。だが二人はそんなことなど気にも留めず、亜侠は北州で、清侠は帝都で各々領地のために動いていた。  玄栄の民は知っている。この亜侠と清侠が命を懸けて忠誠を誓うのは栄徹ではなく、皇太子である栄鷲でもなく、王位継承権のない第六皇子・夕栄であることを。そして夕栄が考えることを忠実に、また己の智慧も足して二人が北洲を治めているのだと。  玄栄では生きることができない。貴族でないものはことごとく淘汰されてしまう。だがその中でも北州ならば、まだ生きていくことができる。北洲では己が人であれる。そう信じて皆が北洲を目指すが、北洲にも受け入れられる限度というものがあった。何万何千という国中の民を北洲がすべて受け入れることなど到底不可能。北洲を目指しても入ることすらできないその現状を目の当たりにした時、民は口々に言うのだ。  皇帝を弑せッ! 皇族を弑せッ! 我らが生きられる国を、我らが作るのだッ。  そして、一人の青年が立ち上がり拳を天に掲げる。皆を奮い立たせるように叫んだ。  人は生まれながらにして平等であり、幸せになる権利を持つ。玄栄の民よ、今こそ立ち上がれッ。我らの国を、我らが生きられる国をこの手に取り戻すのだッ!!

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