7 / 11

第7話

 最初はたった一人の叫びだった。だが、その声は日に日に大きくなり、たったひとつだった拳は二つ、三つ、十、百、千と次々に天高く掲げられた。夕栄の言った通りに、それは大きなうねりとなって玄栄のすべてに広がる。  北州ができるのならば、他の州にできないはずがない。北州を、否、それ以上の豊な土地と暮らしを皆が享受できるように。虐げられた我々が今こそ幸せになる時だ。悲鳴を笑い我々を踏みつけた皇族貴族が地獄を見る時だッ!!  男たちは鎌や斧を手に立ち上がる。女たちは包丁を掲げた。それさえも無い者たちは太めの木の棒を探してそれを握った。立ち上がれ! 立ち上がれ! その声が大きな嵐となり、男も女も皆が国の各所にある武器庫に押し入った。剣に銃、火薬を奪った。そのためになら惨殺も厭わなかった。皆が血に塗れた。だがそれさえも民衆の中にあるナニカを沸き上がらせるばかりだった。  皇族を、貴族を弑すのだ。そうすれば人としての生活が送れる。幸せがやってくる。誰もがそう信じた。それが正義なのだと。そして――その心のままに人々は武器を手に宮殿へと押し寄せたのだ。  殺せ、殺せっ、殺せッッ――!!  そう叫ぶ声があちこちで聞こえる。すでに宮殿の門は破られた。ここにも時期血走った眼をした民衆が押し寄せてくる。兄を、兄を逃がさなくてはと栄鷲は腰に剣を佩いて兄の部屋へと走る。侍従はすでに逃げた。栄鷲が信頼できる味方は李光しかいない状況でどうやって兄を守りながら安全な場所に逃げるのか。明確な方法は何も思い浮かばないが、とりあえず夕栄の元へ行かなければと栄鷲は走った。   最初はたった一人の叫びだった。だが、その声は日に日に大きくなり、たったひとつだった拳は二つ、三つ、十、百、千と次々に天高く掲げられた。夕栄の言った通りに、それは大きなうねりとなって玄栄のすべてに広がる。  北州ができるのならば、他の州にできないはずがない。北州を、否、それ以上の豊な土地と暮らしを皆が享受できるように。虐げられた我々が今こそ幸せになる時だ。悲鳴を笑い我々を踏みつけた皇族貴族が地獄を見る時だッ!!  男たちは鎌や斧を手に立ち上がる。女たちは包丁を掲げた。それさえも無い者たちは太めの木の棒を探してそれを握った。立ち上がれ! 立ち上がれ! その声が大きな嵐となり、男も女も皆が国の各所にある武器庫に押し入った。剣に銃、火薬を奪った。そのためになら惨殺も厭わなかった。皆が血に塗れた。だがそれさえも民衆の中にあるナニカを沸き上がらせるばかりだった。  皇族を、貴族を弑すのだ。そうすれば人としての生活が送れる。幸せがやってくる。誰もがそう信じた。それが正義なのだと。そして――その心のままに人々は武器を手に宮殿へと押し寄せたのだ。  殺せ、殺せっ、殺せッッ――!!  そう叫ぶ声があちこちで聞こえる。すでに宮殿の門は破られた。ここにも時期血走った眼をした民衆が押し寄せてくる。兄を、兄を逃がさなくてはと栄鷲は腰に剣を佩いて兄の部屋へと走る。侍従はすでに逃げた。栄鷲が信頼できる味方は李光しかいない状況でどうやって兄を守りながら安全な場所に逃げるのか。明確な方法は何も思い浮かばないが、とりあえず夕栄の元へ行かなければと栄鷲は走った。  恐ろしい怒声を響かせながら民衆が迫ってきている。声をかけることすら惜しいとばかりに扉を開いた瞬間、ドンッと夕栄が勢いよく栄鷲の胸にぶつかってきた。 「ッッ――」 「兄上! 早くこっちへッ!」  驚いている夕栄に構っている余裕はない。栄鷲は夕栄の手を掴んで彼の部屋に素早く入り込んだ。李光が扉を閉めて警戒する。

ともだちにシェアしよう!