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第9話
本棚の奥が静かになったことを確認して、夕栄は薄く微笑んだ。やはり、李光は己の考えを理解してくれたようだ。李光とはあまり親しくはなかったが、それでも利害が一致し、それが栄鷲のためになるとあればなおさらに彼は強力な味方となる。その夕栄の読みは完璧と言っても良いだろう。
民衆が押し寄せる。怒号が飛び交う。
殺せ、殺せとの叫びは怒りと絶望の証。
あれほどに皇族にすり寄ってきた貴族は皆我先に国外へと逃げた。皇帝が弑された今、もはや白家の栄光は無くなったも同然。否、元々栄光など、無かったのかもしれない。何万もの民を虐げた上に成り立つ栄光など、果たしてあろうか。
報いは受けよう。だがそれはどうか、我が身で終わるように。大切な弟が生きて生きて、生き延びられますように。
迫りくる怒声を聞きながら夕栄は静かに瞼を閉じる。その瞬間、黒い影が夕栄の前に降り立った。
暴動などでは治まらない、そう、言うなれば〝革命〟がこの時玄栄の国全体で巻き起こった。民衆は怒りに宮殿へと乗り込み、皇帝であった栄徹はその場で切り殺され首は晒しものにされた。逃げ遅れた貴族たちもことごとく捕まり牢に入れられ裁判を待っている。貴族の中で民衆の怒りを買わず平穏であったのはおそらく北洲を治めていた明一族だけであっただろう。
民衆は信頼する指導者を選び、彼らが皇帝の変わりに議会を作って国を動かし始めた。そしてその頂点に立った男こそ、最初に拳を振り上げた若き青年・佳 雲嵐 である。民衆は彼こそが自分たちを救ってくれる神仙だと信じ、敬い、彼がいることに歓声を上げた。
議会は皇族の撤廃を決定したが、あの荒廃の中で北洲を助けていた夕栄の人気を欲した。彼が議会に味方をすれば派閥を作って対立する議会も纏まり、未だ皇族を慕う者たちも議会に納得を示すだろう。あるいは己が意のままに事を進められると思ったのかもしれない。だが、四年の月日が流れた今も、夕栄と栄鷲の行方はようとして知れなかった。
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