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第3話

「先輩、先輩。起きてぇ。俺、暇なんだけど」  カナトがペチペチとアキラの頬を叩く音が響く。その刺激にアキラはゆっくりと目を開ける。  そしてフローリングの上で寝転がっていることに気がついた。 「カナ……ト……? 」 「うん。先輩何の夢見てたの? すごい笑顔だったけど」 「あ、ああ……お前と初めて会って、その後に花見をした時の……」  アキラは体を起こし、少し痛む頭を抑えようとして、両手の違和感に気がついた。  掌を内側に合わせるようにして手首が手錠で固定されており、腕の自由がきかない。  あたりを見渡せば、冷房の効いた見慣れない部屋。おそらくカナトの部屋だ。  確か大学で待ち合わせた後、カナトが初めて家に案内してくれたのが覚えている最後の記憶だ。  そういえば、待ち合わせた時にカナトから飲み物を手渡されていた。何か仕込まれていたのだろう。  なんとか腹筋を使って座った姿勢をとる。 「……これは何だ、カナト」 「何って手錠だよ」 「動かしづらいから、外してくれると助かるんだが」 「手錠ってそーゆーもんでしょ」  ーー会話が成立しているようで成立していない。  アキラはため息をつき、困った顔でカナトを見る。  付き合い始めてから三ヶ月。季節は夏になっていた。  その付き合いのなかで、カナトの性格について少しずつ分かってきた事がある。  カナトは独占欲がとても強かった。  派手な見た目に反し、とても献身的に尽くすが、自分の意に沿わない行動や態度を相手がとると、途端に情緒不安定になる。  その果てに今回のように、突拍子もない行動に出ることがあるのだ。  また、自分のテリトリー内のものを大切に守り、けして離さない。他人に手を出される事をひどく嫌う。  そんな野生の獣のような気性をカナトは持っていた。 「怒っているのか、カナト」 「うん、先輩が悪いんだよ」  表情をまったく変えず、淡々とカナトは言った。 「俺には皆目見当がつかないな」  埒があかないので、早々に白旗を上げる。 「じゃあ、今日の午前中、ここに来るまでの事を思い出してみて」  カナトが近くの椅子に座る。手には手錠の鍵と思しきものを弄んでいる。 「朝起きて、支度して、ごはんを食べて、通学の為にバスに乗った」 「うん」 「大学に着いて一限うけて、空きが一コマあったから図書館に行ったらお前がいて、家が近いから来ないかと誘われて、ここに来た」  それを聞いたカナトは冷ややか目でアキラを見下ろす。 「……抜けてるよ、先輩」 「えっ? 」 「バスが揺れた時に倒れそうになった女を支えた、が抜けてるよ」 ーー見られていたのか。確かにバスの揺れでよろめいた女性を助けた。軽く肩を片手で支えた程度だ。 まさかそれで怒っているのか。

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