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第6話

 それから一週間ほどたった日の午後。  カナトはアキラを探していた。  ーー勉強を教えてくれる、って言ってたのに、先輩さぁ、どこにいんの?  今日はサークルもないし、図書館にいると思い探したが、どこにもいない。 「もー、どこいったの先輩」  ふらふらと構内を彷徨っていると、かすかに人の声が聞こえてくる。あの先はたしか実験棟になっており、まだ座学中心のカナトには馴染みのない場所だ。 「ふーん」  それでもなんとなく気になって、そちらの方に歩いていくことにした。 「悪いけどまた次も頼むよ。全く集まりが悪くて困る」  しばらく歩くと、通路の先でアキラの声が聞こえてきた。ちょうど角になる柱の影から通路の先を覗いて、アキラの姿を観察する。  アキラはカナトよりも少し高い190センチの身長に、がっしりとしなやかな筋肉のついた体。ツーブロックに高い鼻梁。爽やかなスポーツ系男子だ。  そんなかっこいい彼が自分を愛してくれているのだと思うと、カナトは知らず知らずのうちに顔がにやけてしまう。  最初は他の人間と同じでアキラに触られるのも当然苦手だった。  だけど、優しい声で、可愛い、愛してると囁かれ、何度も気持ちよさを与えられた。  体はすぐに拒否反応を示さなくなり、もっと触って欲しいと懇願するまでに身も心も作り変えられてしまった。  そんな自分の素敵な所有物はみんなに自慢したいものだ。でも、触られたくないからケースに入れてお披露目する。触っていいのは所有者たる自分だけ。  その優越感に浸るのはカナトの特権だ。 「私以外にも、高瀬君が声掛けたらみんな来てくれるよ。確かに今回ちょっと集まり悪いかもだけど。試験前だしさ、しょうがないよ」  高い声が聞こえた。アキラの体に隠れて見えなかったが、女性がいるようだ。カナトは会話が聞こえるように耳を澄ます。 「みんな来てくれないと、また俺の好みに偏っちゃうだろ。新しいの、色々試したいんだ」 「新規開拓ってやつ? まぁ、高瀬君らしいけど」  あははと女性が笑う。とても親しげな雰囲気だ。 「そうだ、今回来てくれたお礼は何がいい? 」  アキラが女性に問いかけると、女性はしばらく考え込む。 「そーだなぁ、あ、今度一緒にごはん行こうよ。良さそうなお店見つけたんだ」 「わかった、また連絡してくれるか」 「はーい。またね、高瀬君」  高く響くヒールの音が遠ざかっていく。幸いなことに女性は通路の奥から去って行ったようだ。

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