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第8話

 アキラは子供の頃から観察するのが好きだった。虫もペットも人間も。  そのうち、それらに自分が手を加えたらどうなるのかが気になった。  特に面白かったのは人間だ。それぞれが思考を有し、それぞれの思惑で動く。そこにアキラが働きかけて、ミスリードを誘い、周りが混乱する様を見るのは愉快だった。  自分の発言や行動が相手に与える影響の大きさを理解し、うまく立ち回っては楽しんだ。  自分が管理する箱庭で人形達はどう動き、考えるのか。  状況を整えて、それが自分が望む結果になった時、アキラは仄暗い喜びと達成感に心が踊る。  今回のようなハプニングも、対応できるならば、ちょっとしたスパイスだ。  アキラがカナトから別れを告げられて二週間。  アキラはカナトに全く会えずにいた。学部は同じとはいえ、学年が違うし、構内は広いからだろう。  連絡を取り合わなければ、本来会うことは難しい。もちろん何度も連絡したが、繋がることはなかった。  とはいえ、そろそろ痺れを切らしたカナトの方から連絡が来るだろうと思い、選択授業の講義室へ移動する。  この講義は美術鑑賞。課題のレポートを書くだけで単位がもらえるとあって人は多い。  だが試験がない為、講義を真剣に聞く者はほぼおらず、教員も美術品のスライドを表示して解説したり、教育テレビの録画を流したりと、フリーダムな時間だ。  早めに行って後ろの席に座り、スマホを見る。カナトからの連絡はなかった。 「お隣よろしいですか、高瀬先輩」  隣で凛とした声が耳に届き、スマホから声の方へ目を向ける。 「君は…ああ!ヨゾラ君だね。どうぞ、王子様。噂はかねがね」 「恐縮です」  黒髪の美青年は隣の席に座り、本を広げる。  星月夜空。ハイスペ王子と言われる同じ学部の後輩だ。今まで話す機会がなかったが、なるほど顔立ちが整っている。  本を広げ、ただ座っているだけなのに、その所作の美しさは一枚の絵画を思わせた。 「君は美術に興味が?それとも単位取得のためかな?」  当たり障りのない話題を振ると、ヨゾラは微笑んで答える。  「もちろん美術に興味がありますよ。僕は彫刻、人物像を見るのが好きなんです」 「俺も君のような、綺麗なものを見るのは好きだよ」 「ふふ…それはお誘いですか」  この手の会話は手慣れているのだろう、恥ずかしがる事もなく、ヨゾラは淡々と答える。 「俺には高嶺の花だが、誘えば乗ってくれるのか?君は」 「お相手によりますよ。しかし、花ですか。…僕は鑑賞されるよりも鑑賞する方が好きですね。先輩もそうでしょう?」  カナトが目を細めて、楽しそうに笑う。 ーーなるほど。本質を見抜かれているな、これは。あまり、関わらない方が良さそうだ。  アキラがヨゾラに警戒心を抱いたのを知ってか知らずか、今度はヨゾラが話題を振ってくる。

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