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第9話

「ところで……結城カナト君をご存知ですか。僕と同じ学年なのですが、少し派手な容姿の……」  まさかヨゾラからカナトの名前が出てくるとは思わず、少しドキリとする。 「ああ、同じサークルの後輩だよ」 「彼、サークルには出ていますか? 」 「いや、ここしばらく見ていないな」 「そうですか。彼、もう二週間ほど大学に来ていないようで。そうですか、サークルにも来ていませんか……」  二週間大学に来ていない。どおりで姿を見ないはずだ。 「必修まで出てこないので、先生方が気にしていました。彼は見た目こそ派手ですが、講義にはきちんと参加する人でしたから」  ヨゾラはため息をつく。 「……単刀直入に聞くが、わざわざ俺を選んで、話しかけた理由は? 何か目的があるんだろう? 」 ヨゾラはアキラの顔を見て頷き、声を潜める。 「カナト君に必修だけでも講義を受けるように、先輩から伝えて欲しいのです」 「俺がか? 俺はただの、同じサークルの先輩だぞ? お前が言ってやった方がいいんじゃないか ?」  それを聞いて、ヨゾラはニヤリと口角を釣り上げる。王子らしからぬ、悪どい微笑みだ。 「ただの先輩……? ふふ、ご冗談を。僕は、貴方と彼がよく一緒にいると耳にしたことがありますし、実際僕は」  ヨゾラはアキラの耳に顔を寄せ、そっと囁く。 「お二人が愛を深めていらっしゃる所にも遭遇したことがあるのですが、それでも『ただの』と? 」 「……だから何だ? 周りに知られたくないなら、伝えろとでも言いたいのか」  少し怒気を含んだ声で呟くと、ヨゾラは微笑みを深くする。 「まさか。ただ彼をよく知るであろう貴方にお願いしたいのです。貴方に会えば彼も元気が出るかもしれませんし。僕が行くよりもずっといいはずです」 「先輩に体よくお使いを頼むつもりか」 「そうなりますね」  さらに凄んでみるが、ニコニコとして動じる様子のないヨゾラを見て、アキラは眉間に手を当てた。 「……はあ。……わかった」 「では、こちらに場所が記載してあります。それから先生から課題を預かっていますので、ご持参ください」  ヨゾラは一枚の紙と重そうな紙袋を手渡してくる。随分と用意周到だ。最初からそのつもりだったのだろう。 「カナトのことを随分と気にかけてるじゃないか」 「……彼は入学してすぐ、参考書を忘れた僕に『あれ、忘れたの? 使っていいよ』と貸してくれたんです」  ヨゾラは思い出すように目を伏せる。 「僕、恩返しはきちんとするタイプなので」 「恩返しになったかどうかはまだわからないけどな。ただ届けるだけだぞ」 「ええ、構いません。それでは、失礼いたします」  ヨゾラは開いたままにしていた本を閉じて、鞄に入れて立ち上がる。 「……仲直りしてくださいね」  去り際にそう言って講義室を出て行く。しばらくすると教員が入ってきた。始業だ。  アキラはため息とともに、苦い顔をする。  ーーどこまで知っているのか知らないが、アイツとは金輪際関わりを持ちたくないな。察しが良すぎる。  アキラは手渡された紙を見る。  以前はカナトに睡眠薬を盛られ、意識朦朧としていた為か、部屋までたどり着いた記憶があまりない。  住所を見れば大学からそう遠い距離ではない。徒歩圏内だ。それに今日はこの講義で終わる。 「この後、行ってみるか」

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