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第11話

「あ、でもさぁ先輩、ごはん行く約束してたよね? 俺はそーゆーの嫌なんだけど。それとも、また不可抗力って言い訳する? 」  カナトがニヤリと笑う。それを見たアキラは降参、といった風に両手を上げる。 「わかった。別のお礼を考えるよ」  カナトは当然だというように、うんうん頷く。先程の暗い顔が嘘のように楽しそうだ。 「聞き分けいーじゃん。先輩ってそんなキャラだったっけ。なんか企んでんじゃねーの? 」 「まさか。一途で可愛い、俺の好みの子には優しくできるよ」  アキラはカナトの髪を優しく撫でて、微笑む。 「俺も、俺だけ見てくれて、ちゃーんと言うこと聞いてくれる誠実なイケメンには優しくできるよ」  カナトは悪戯っぽく笑う。 「はは、ようやく誤解が解けて良かったよ」  アキラがやれやれというように息を吐く。 「じゃあ、ここに座って。仲直りしよ」 「いつものやつをご所望か? 」  アキラはポンポンと叩かれたベッドに座り、カナトの頬に触れる。カナトは目を閉じて、アキラの手に頬を擦り寄せる。 「俺をこんなにした慰謝料込みでぇ、すんごぃのをお願いしまーす」 「やっと調子が出てきたみたいだな、……ん、少し痩せたか」 「あんまり食欲なかったからね」 「ちゃんと食べろよ」 「うん、ちゃんと食べる」  カナトはアキラに抱きつき、右手でアキラの体のラインを確かめるように撫でる。そして、アキラのすでに窮屈そうなジーンズの上で止まる。 「これ食べたらね」  妖艶な仕草でペロリと舌で唇を湿らせ、ジーンズの上からトントンと指で弾くように刺激する。 「……いいぞ、腹一杯にしてやる」  アキラはベッドの上のカナトを押し倒し、上に覆い被さる。  カナトは期待と情欲の籠った眼差しでアキラを見上げる。自分の鼓動が痛いほどに感じられた。 「そんな物欲しそうな目をして。そんなにしたかったのか? 」 「だって……二週間、ぶりだから……ん、んん!? 」  急ににゅるりと熱い舌が入ってきて、口が塞がれた。  歯列をなぞり、舌を吸われ、喉の上を舌で撫でられる。  角度を変えて、何度も何度も。 「は、あ……う……あ、あっ……ん」  食べられてしまいそうな激しい口付けに頭がクラクラする。飲み込みきれない唾液が口の端をつたい、流れていく。  しばらくそうして、お互いに酸欠になる手前でようやく唇が離れる。 「ぷはっ、あ、あ……ふぅ」 「は、なんて顔してるんだカナト。キスだけでとろけてるのか? 誘ってきたのはお前だろ? 」 「先輩が……激しく、するからぁ」 「お前がそうして欲しがるからだよ、なぁ、まだイってないよな? 」  アキラがTシャツの上から、少し芯を持ちはじめたカナトの胸を指先でつつく。 「……ふぅ、んん!! 」  体を震わせながら唇を噛んで耐えるカナトを見て、アキラは手を離す。 「どうなんだ? 」 「……い、イって、ないっ……!! 」 「そうか、お前、我慢した方が気持ちいいって教えてやってから、よく我慢するようになったな」 「ち、ちが……! 」 「違わないだろ」  今度は少し強めにカナトの胸の先を指で挟んで捻る。 「……ん!!いっ、いた……! 」  一瞬だけ走った痛みが徐々に鈍い快感になって、じわりと腰に広がっていく。  カナトは目を閉じて、息を吐いて、必死に快感の波をやり過ごす。 「お、耐えたか。前はこれでイってたのに、少し感度が下がったんじゃないか……ん? 」  アキラが鈍い痛みを感じて目線を向けると、カナトの足が上から押さえつけるように局部に当たっている。 「調子に、乗んなよ……俺の、所有物の、分際で……俺がさせてやってんだよ」  カナトは快感に目を潤ませながらも、不満を口にする。  ―やられっぱなしは気に食わない、と。 「俺は、先輩の、人形じゃない……!! 」 「……へぇ」  アキラは低く唸り、まるで自分の方が上だと思い知らせるように、思い切りカナトの首筋に歯を立てた。 「……いっ!ひ、ああっ!! 」  あまりの痛みにカナトは悲鳴をあげて、身を捩る。 「たまには優しく抱いてやろうと思ったが、気が変わった。お望み通り『すんごぃの』、やってやる」  開いた瞳孔に、笑う口元からは歯が見え隠れしている。  そこにいるのは少し意地悪な、頼りがいのある先輩ではなく、まさに獲物を捕食しようとする獣だ。 「トぶなよ、カナト。まぁ、何度でも引き戻してやるけどな」 舌舐めずりをして、今まさに獲物を捕食しようとしているようにしか見えず、カナトはぶるりと震える。 「ま、待って、先輩……落ち着いてよ、ね? 」  最終手段の上目遣いおねだりをしてみるが、アキラの表情は全く動かない。  ―あ、ヤバい、これ。なんか地雷踏んだっぽい。  俺、死んじゃうかも。 「楽しませてくれよ?俺の可愛いカナト……」 「ふえっ……! や、やだ……ちょっと、待っ……ひああっ……!! 」  ――まだ俺を囲った気になっているなんて。  どちらが主か、二度と間違えないように思い知らせてやるよ。 ――なぁ、俺の可愛い、大切な人形。

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