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第2話
短いとも長いとも言えない穴の中を落下して、バチャンという音と共に俺達は大きな池の中に落ちた。
握った手をぐっと引っ張って溺れそうになる夕を水面に上げると、二人で必死に口をパクパクさせて息を吸った。
少し落ち着くと、ゆっくりと周りを見回す。
洞窟と分かる岩の壁。見上げても自分達の落ちて来た穴は既になく、月の照らす夜ほどの暗がりの中、目をこらしても見えるものは何も無かった。
「どうする?」
夕に問われ、どうしようかと返すしか出来なかった。
あんなに粋がって見せても、所詮はまだまだ子供。ほんの少しでもバランスが崩れれば泣き出しそうになりそうな気持ちを、それでも夕の前では格好いい自分でいたいと言う、その一心だけで泣き叫びそうになるのを我慢していた。
「ともかく、ここから上がろう。このままここにいたら寒くて凍えてしまうよ。」
すでに唇が青ざめている夕も頷いて、二人で陸に向かって泳ぎ出した。
暗い中で距離感もつかめず、それでもなんとかもう少し、もう少しと二人で励まし合いながら泳ぎ続け、5分ほどでようやく池から上がれそうな場所を見つけた。
まずは夕を肩に乗せて陸に上がらせた後、俺も手を陸につくとぐっと力を入れて体を引っ張り上げる。
その時、体を上からグイッと引っ張られ、ありがとうと夕に礼を言いながら体全部を陸地に上げた。
「宵っ!」
助けてくれたはずの夕の声が自分の近くにある気配とはまるで遠くから聞こえ、え?とその声の方に向くと、夕が綱でぐるぐる巻きにされて俺から離れたところに転がされているのが見えた。
だったら俺のそばにいるのは誰だ?
バッと気配の方に振り向くと、その何かを見る前に夕と同じ様に身体に綱を回され、ぎゅっとまるで荷物でも縛るかのように優しさの欠片も感じられない位に力いっぱい絞られて結ばれた。
そしてその綱と俺の体の間に手を入れて掴み上げられ、夕のそばにポンと放り投げられた。
「いってぇ!」
「大丈夫?」
しかし、そう言っている夕の声は震え、俺達の状況が大丈夫ではないと言う現実を突きつけていた。
ザッと言う近付く足音に後ろを振り返ると、影のように黒い装束に身を包んだ人が足を引き摺るようにしてこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
恐怖でカラカラになった喉がない唾を飲み込みごくりと鳴った。
近付くにつれそれがすでに人としての色々なものをなくしている事に気がついた。
顔の凹凸や体のふくよかさを形作るものはすでにその体からは剥がれ落ち、唯一残った薄い皮一枚が肉塊となるのを保護しているようだった。
これなら、少し力を入れれば弾け飛んでいきそうだな。
そう思ったが、俺の体を池から引っ張り上げ、綱を絞った時の力を思い出すと、見た目での判断は危ういと感じ、まずは状況を見守る事にした。
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