12 / 39

第12話

目を覚まして瞼を擦り、辺りを見回す。 暗い部屋の中、いつも通りに隣から聞こえる寝息に心が落ち着く。 雪と過ごしていたこの数年で、実の所いつの間にか俺の心の雪の占める割合が夕よりもでかくなっていくのを止めることはできなかった。 まったく、とんでもないやつだな… 寝顔を見ようと雪の方に顔を向けて、捩った体の中心に違和感を感じて触れると、痛みと血の固まった黒いザラザラしたものが手についた。 呪いにかかってから怪我も病気も老いもなかった。たとえ傷が出来ても、あっという間に消えていた。 昼間についた傷が夜になっても治らないなんてことは呪いにかかってからは一度もなかった。 「何で?」 不思議さに傷口をカリッと爪で引っ掻く。ピリッとした痛みと爪に付いた血。 何が起きているんだ? 訳がわからず、それでも痛みという久しぶりの刺激に身体が熱くなっていく。 ここを雪の尖らせた舌が抉って… 先程された事を思い出すと、我慢できずに腰が揺れ、むくむくと下半身が反応していく。 夕には会いたいが、雪の言った通り夕では俺のこの昂りも身体を火照らすこの熱も覚ますことはできないだろう。 雪にやられたな…もう後戻りはできないか、俺も夕も雪も。 そう考えて、隣で寝ている雪の鼻をぐにっとつまむ。 「宵、傷は?」 いつから起きていたのか、摘んだ俺の指を動じる事なく掴んで雪が俺の目を見る。 「治っていない。」  雪の顔が明かりのない中でもにまぁと笑うのが分かった。 「お前、分かって…」 「当たり前だろう。傷が治らないってことは、呪いの効果が消えかけているか薄まっているか…どの道、俺は宵を夕にこの先も、次の代の夕になっても渡すつもりなんてほんの微塵もないよ。宵はずっと俺のモノだ。まぁ、宵にその気がほんの一寸もないなら諦めもしたんだろうけど…」 そう言って雪が俺に馬乗りになった。 「もう今日は…」 「こんなにしておいて、俺にウソつくの?」 雪の言葉にぶんぶんと首を振る。 「疲れているのは本当だ。今日は色々あって…だか…ら…」 ハッとして雪の顔を見ると、夕はあれからすぐに話に同意して雪の言っていた家に行ったと告げられた。 「そう…か…」 雪の言葉にあんな痴態を見せられれば当たり前だよなと諦めのため息を吐く。 もう、会えないのか。こんなに何百年も一緒に過ごしてきたのに、別れは一瞬だな。 流れそうになる涙を隠すように雪から顔を背けると、顎を掴んで顔を戻しつつ涙を指で拭いながら夕に会いたい?と尋ねられた。 「俺は今でも、それがたとえ呪いのせいだとしても、やっぱり夕の事も愛しているんだ。だから会いたくないとは言えない。でも、雪がそれを嫌だと思っているのも分かっているから…俺は雪のモノになるって言ったから…だから、雪が嫌な事もしたくないんだ。」 「宵、それはズルいよ。はぁあ、分かった。俺の負け。夕に会ってもいいよ。多分、宵と夕の永遠の愛という縛りは消えた。そう、俺が消したから…だからもう夕は今代限りで宵の元には戻らない。いいや、戻ることができなくなるはず。全て忘れ、他の人々と同じように次はまったく違う人としてこの世に生まれるんだ。そして宵はこの先もずっと俺だけのモノとして生きていく。」 「夕が今代限りなのはなんとなく分かるけれど、雪は夕のようにはなれないだろう?こうやって傷も治らないんだから、お前との愛では縛りにはならないって証拠じゃないのか?」 「それに関しては宵にはまだ言えない。ただ夕と違って俺は宵とずっと一緒に生きるよ。俺は夕のように宵を残してなんてことはしない。だって俺のような奴が現れないとも限らないし…だろ?でも、どういうことなのかはまだ秘密。それより、宵は今からされることだけを感じて?俺の手や口や舌が宵をどれだけ愛しているか教えるから。その代わり、宵が俺をどれだけ愛しているのか、俺に教えて?」 「どうやって?俺はそう言う事を素直に言える性質じゃないよ…知っているだろう?」 雪はふふふと笑うとここで教えてと俺の腹をさすった。 「ここに俺を受け入れて、俺の全てを受け止めて?」 カッと顔が熱くなり、こくんと頷く俺を雪が強く抱きしめると、俺の足を広げて雪の体と一つになった。

ともだちにシェアしよう!