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第13話
次の日、雪に連れられた俺は夕の住む家に向かった。
「雪は、来ないの?」
家に近付くにつれ雪の口が重くなり、夕の家の前まで来ると、ん!と顎でそこだというふうに合図して何も言わずに俺を残して踵を返そうとしたが、俺の言葉でその足を止めた。
黙ったままでいる雪が重い空気を作り出すのを、それを振り払うことはせず、俺も黙ったままで雪の背中を見つめていた。まるで我慢大会のようだなと考えていると、大きく肩が揺れて、ようやく雪が話し出した。
「俺、そんなに人間できていないから…本当は今すぐ宵の手を掴んで家に連れて帰りたいのを必死で我慢しているんだ。夕と楽しく俺の知らない間の二人の事を話しているところなんか見せつけられたら、俺、何をしでかすか分からないし…」
そう言い終わると、じゃあと言って雪の寂しそうな背中が俺から離れていく。それを上着の裾を引っ張って止めると、立ち止まりはするものの、やはり雪はこちらを向こうとはしない。
こんなに大きくなっても初めて俺の所に来た頃の小さい雪と何にも変わってないんだな。
そう思うとなんだか無性に雪が可愛くなって、我慢できずに背中に抱きついた。
雪の体が大きくビクンと揺れる。
「雪…今日はもうここまででいいよ。夕の住んでいる家も見られたし、場所も分かったしさ。だから…ほら、一緒に俺達の家に帰ろう?な?」
「いいのか?だって夕に会えるのをあんなに楽しみにしていたのに…」
雪の前に回り込んで驚いたような表情をしている鼻をつまむ。
「俺がいいって言っているんだからいいんだよ!ほら、帰るぞ!早くしないと、やっぱり夕に会いに行ってくるって…」
「早く帰ろう!!」
雪の手が俺の手を握ってぐいぐいと引っ張るようにして歩き出す。
我慢できずにくすくす笑うと、雪の足が止まって宵〜と俺の名を呼びながら情けない顔をした。その頭をぐしゃぐしゃと撫で回しながら、仕方ないなと話し出す。
「雪…夕の所に行く時はちゃんと言うし、雪が来たければ来てもいい。夕の家の中に入って好きなだけ俺達を監視でもなんでもしてくれて構わない。夕を愛してはいるけど、俺はもう夕を抱く気はないよ。だからそんなに心配そうな顔するな!」
「でも…」
「俺はもう愛するより愛されたいんだ。分かったら、さっさと家に帰ろう!」
それが何を意味するか理解した雪が今から?と聞いてきたのに無言で頷くと、熱く真っ赤になっていく顔を見られたくなくて、今度は俺が雪の手を引っ張って俺達の家に戻る道を歩き出した。
そんな俺の背中で夕の家のカーテンが揺れ、引っ張られながらも振り向いてそれを見た雪がにまぁと笑ったようだが、俺がそれに気が付く事はなかった。
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