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第15話

夕がここに戻って来て半年が過ぎた頃、雪が仕事や雑用の為、いつものように自分の家に戻って行く。 俺もいつも通り、昼過ぎに雪が戻る頃まで身体を休ませようと、ベッドの中から行ってらっしゃいと手を振って瞼を閉じた。 どれほどの時間が経った頃か、ピクンと耳がドアをノックする音に反応した。雪…はノックなんてした事ないし、他に訪ねてくるような人もいないしと不思議に思いながら、上半身を起こしてベッドの側にある窓を覗き込む。 そこにはあの日から会えずじまいでいた、夕の姿があった。 雪のいないところでは夕には会わないと約束しているし、夕だって雪にここに近付いたら閉じ込めると言われているのに、何で来たんだ!? まだ雪が戻るまでには時間があるとはいえ、それでも何か起こらないとは限らない。 急いで素肌にシーツを纏うとベッドから飛び降りて、玄関に向かった。 会いたさにドアノブに手をかけるが、回そうとする手をもう片方の手で必死に止めて、この向こう側にいる愛しい人の名前を読んだ。 「夕…」 「宵!ここを開けて!僕とここを出て他に行こう!!あれはダメだ!僕…分かったんだ…だからっ!!」 「ダメだ!雪のいないところでは夕とは会えない!雪とそう約束したんだ…それに夕だってここに来たことがバレたら閉じ込められちゃうんだよ!今すぐに家に戻って!!俺はここを開けられない!近い内に雪と会いにいくから、待っていてよ。」 俺の言葉にガンガンと扉を叩いていた音が止んだ。静かになった家の中で、夕も諦めて自分の家に帰って行ったんだろうと思い、少しだけ寂しい気持ちを喉の奥に追いやってごくりと飲み込んだ。 いつものように眠っていないと雪に勘繰られてしまうと思い、寝室に戻ろうと踵を返した瞬間、バーンという音と共にバリバリと木が割れる音がして、さーっと森の木々の香りが家の中に入り込んできた。 何?と振り返ろうとした顔にふわっと布が当てられ、息を吸った瞬間に体から力が抜け、警戒音を鳴らす間も無く意識が落ちていきそうになる。 それに抗うように空を掻きむしる手をぐいっと掴まれ、耳元で落ちろと囁かれた。嫌だ、ダメだと動かそうとする口に再び布が当てられ、呼吸を止めて我慢していたが、ついに苦しさから俺はそれを思い切り吸い込んでしまい、完全に力の抜けた身体を抱き上げられたところで、暗闇に飲み込まれた。

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