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第17話

夕に連れ去られてからどれくらいの時間が経ったのだろうか? ベッドに括り縛り付けられたままの姿で寝かされている俺の隣で、夕が俺の身体を撫でながら満足そうに微笑んでいる。 こうやって会ってみると、やはり夕への愛がなくなったわけではないと再確認する。ただそれは恋愛要素のない、家族愛に近いものになったような気がした。 それを証明するように、こうやって夕に触れられていても、前には感じていた抱きたいと熱望するような気持ちは一切湧いてこなかった。 「夕、帰らせてくれ。俺はもうお前を抱けない。すまない、夕。」 俺の言葉に夕が身体を起こして大声を出す。 「謝らないでよ!そんな言葉は聞きたくない!…ねぇ、宵。今は色々な薬があってね…だから宵もそれを使えばきっとまた、僕を抱けるようになると思うんだ。だから、もう少しだけこうしてて?お願い、宵。」 夕の顔が近付いて来るのを、ここはあの家じゃないのか?と疑問を投げつけて止める。 「だって、あの家はあいつが…あの死に損ないが建てた家だよ?僕がそんなすぐにバレちゃう所にいるわけないでしょ?」 そうして夕がふふふと可笑しそうに笑った。 「死に損ないって…雪の事か?」 夕の話の中で出てきた気になった言葉。 聞かれた夕がああと言うように頷く。 「そう、雪の事だよ。まったく、自分で縛り付けていたものを解くんだから嫌になる。僕は絶対にもう一度縛り直してみせる。そして次の代もその次もずっと僕として宵の所に戻ってみせる。宵だって、ずっと一緒に生きてきた僕との方が絶対にいいんだって!だから、雪を愛さないで?宵の心から雪を追い出しちゃおう?」 「どう言う事?」 「さっきも言ったけれど、いろいろな薬があるんだよ。眠らなくても大丈夫な薬とか、飲んで初めて見た人を愛し欲情する薬とか…最愛の人の事だけ忘れる薬…とか。」 「夕!俺はそんな薬飲みたくないよ!雪の事を忘れる薬なんて…そんなの嫌だ!!」 俺の言葉を聞いた夕の顔が曇り俯いた。 「何の躊躇いもなく雪の名前を言うんだね?ほんの少しも僕を忘れてしまうかもなんて事は思いもしないんだね?」 言われてから気が付いた。しかし、それが偽りのない俺の心。 「夕…ごめん。」 「謝るなって言ったでしょ?!」 夕が悲痛な声で叫ぶ。 「……。」 何も言えずにいる俺の沈黙が部屋の空気を重苦しくしていく。 それを追い払うように明るい声で夕が話し出した。 「いいよ。宵はね寂しかっただけ。僕がいなくなって暫くは誰とも会えず、話せずだもんね?あいつが僕も夕と同じように不死にさえしてくれれば、こんな事にはならなかったのに…本当に昔も今も僕達の邪魔をする、忌々しい奴!!」 「それって、俺達に呪いをかけた魔人の事を言っているの?」 当たり前だろうと言うように夕が頷く…と同時に家の中でバーンと言う衝撃音がした。地震のようにカタカタと小物が音を出す。 「こんなに早く見つかるとは…これはもう…いや、まだだ…っ!」 夕が独り言のように呟くと、ベッドを降りて、裸のままで部屋から出て行った。 夕と雪と分かる声が怒鳴り合い、二人の足音が近付いて来る。 扉が開くと同時に二人がなだれ込むように入って来る。 雪の手が夕の口を塞ごうとするが、それよりも先に夕の口が開いた。 「雪が俺達に呪いをかけたあの魔人だ!!宵はずっとずぅっとこいつに騙されていたんだよ!!」 そう言った夕の体がドサっと音を立てて床に崩れ落ち、その頭を雪の足が踏みつけた。 「雪…?」 苦悶の表情を浮かべている夕の言った言葉が信じられない俺は、雪の顔をじっと見つめてその口が開き、否定の言葉を言うのを待ち続けた。 しかし、いつまで待っても、その時は来はしなかった。

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