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第18話

誰も口をきかないまま、ただ時間だけが過ぎて行った。 雪があの、俺と夕に呪いをかけたあの魔人? 「おい、いい加減にしろよっ!!」 俺の思考が夕の声で止まる。 「足、どかせ…ぅあああっ!!」 夕の悲鳴に其方を向くと、雪が夕の頭を足で踏みにじっているのが見えた。 「雪っ!やめろっ!!」 動かせない身体を必死にバタつかせると雪が夕の頭から足を退かし、扉の外に向かって思い切り蹴り出した。 「くはぁあっ!」 夕の苦しそうな呻き声に心配してなんとか頭を起こして扉の外に視線を向けると、見えたのは夕と一緒にいた男達がこちらに向かって頭を下げている姿。夕の姿は全く見えないまま、無常にも扉が雪の手で閉められて鍵をかけられた。 「ゆ…き…?」 恐る恐るかけた声に、雪の肩が反応してゆっくりとこちらを向いた。 「雪、嘘…だろう?なぁ、呪いをかけた魔人がお前だなんて、そんなの笑い話だって、嘘だって言ってくれよ!!」 雪はそれには答えず、俯いたままゆらぁっとベッドに近付いてくる。 その異様さに身体が無意識に震え、口が抵抗の言葉を吐く。 「来るな…やだ…イヤだ!来るなぁああ!!」 ベッドのそばで立ち止まった雪が何も言わずに手を伸ばして俺の首をきゅっと掴むと、その苦しさに喉の奥で声が止まる。 「くぅ…るしっ!!!」 ずっと俺から顔を背けていた雪がようやく顔をこちらに向けたが、例のにまぁとした笑いが浮かんでるのを見て、顔が青ざめ、全身が凍りつく。 「イヤだああああああ!!!宵ーーーーーー!!!!」 突然の扉の外から聞こえてきた夕の絶叫に驚いて、体が跳ねる。扉の方に向こうとするが、雪の手がそれを許してくれない。息のできない苦しさと、扉の外から聞こえて来る何か重たいモノを引きずるような音で、ドクドクと耳が痛くなるほどに鼓動が大きく早くなる。 「もう、会わせない…いや、もうこれで会えない…夕とはもう終わり…ふふふふ…ははははは!!」 雪の手に力が入り、肺に入って来る酸素がもっと少なくなる。括り付けられた手足がばたついてベッドがギシギシと音を立てた。 しかしそれには全くお構いなしで、雪が俺を見つめた。 気が付いてたんだってさ!なあ、宵。もう遅いって言ってやれよ!ああ!それももう遅いか…だって、今頃は夕はもう夕じゃなくなってる…なんて愉快なんだろう?自分で夕である最後の時間を短くしちゃうなんてさ!全く愉快すぎるよ!全部俺の掌の上で踊らされていた事にも気がつかないなんてっ!でも、まさか俺の人形達を使って宵に手を出すとはね…これが終わったら、あの馬鹿どもは消去だな…   これで宵は俺のモノ! さぁ、呪いを掛け替えよう!! 雪の口は開かず、脳に直接言葉が入って来る。 「雪…夕に何をっ?!」 首にかけられた手が外れて俺の頭を優しく撫でながら、雪の顔が近付いて囁いた。 「夕は、消えたんだよ…宵。」 その言葉の意味を脳が理解した瞬間、俺の目からは涙がとめどもなく溢れ出し、口は夕の名を絶叫しながら、あの呪いをかけられた時と同じように、身体の下にぽっかりと空いた穴に、あの時とは違い、何も掴むものもないままに空をかきむしりながら、落ちて行った。

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