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第21話

どれ位ぶりの地上か、そんなのは全くわからないがようやく陸に上がって周囲を見渡す。 雪が途中で引っ張り上げるかと思っていたが、全く手を出してこない。それを不思議に思いもしたが、雪も雪で何か考えているのだろうと、特に気にもしなかった。 しばらく様子を窺っていたが、なんの動きもなさそうなので少し歩き回ってみた。しかし、水に沈む直前に見えた雪の姿はどこにもなく、あの時着ていた服が椅子のような形の石に引っかかっているだけ。 「雪!雪、どこだ?」 池の周りをぐるっと歩いて雪の姿を探すがどこにも気配すらない。先程までは雪なんていらないと、雪と一緒なんてごめんだと、さっさと離れたいとさえ思っていたが、こうなると急に弱気になって、雪が恋しくなる。 ブルっと身震いして、池から出てからずっと裸で歩き回っていたことにようやく気がついた。 こんな姿でフラフラしていたら、我慢できなくなった雪が手を伸ばして、俺を無理矢理…そんなことを考えてしまい、身体が熱くなって、下半身がピクンと反応した。 こんなところを雪に見られたら何を言われるか、いや何をされるかと再び考えそうになって、思考を止める。 「ちょっと借りるか…」 気まずさと寒さと恥ずかしさから何かを羽織らないとと元の場所に戻るために振り返って、来た道を歩き出す。椅子に引っかかっている雪の服を引っ張ってみると、少し重さがあって取れなかった。今度は先ほどよりも力を入れてぐいっと引っ張ると、服と一緒にそこにのっていた何かがゴロンと地面に落ちた。 地面に当たった瞬間、それは砂のように脆く崩れて一瞬で消え去った。 それでもわかる独特な形状。 誰もいない空間に向かって問いかけた。 「今…のって…人のほ…ね?」 震える手をもう片方の手で支えながら、残っている服を慎重にどかすと、そこには数本のやはり人骨と分かる物が見えたと思った瞬間、落ちてもいないのに先程の骨と同じように砂のよう崩れて消え去った。 「まさか…これが雪?雪なのか?!おい、嘘だろう?お前がいなかったら、俺は一体この先どうしたらいいんだよ!?ここから出ることも出来ず、誰にも会うことなく、殺してもらえることもなく、ここで一人で永遠の命を生きていくのか?!ふざけるな!おい、返事しろよ!雪!雪ぃ!!」 いくら叫んでも、洞窟の中を俺の声が響き返ってくるだけ。恐怖と寒さでガタガタと震える体を両手でキツく抱きしめ、なんとか落ち着こうとする。 だが、この世の全ての恐怖が俺を飲み込んだかのように目の前は真っ暗で、身体は歯が鳴るくらいにガタガタと震え、頭がぐらぐらして来た。 イヤダ!タッタヒトリデ コンナトコロデ イキテイクナンテ!ソンナノイヤダ!! 「わーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 自分が出しているとは思えない咆哮が洞窟の中に響きわたる。 呼吸が早くなり頭が真っ白になって視野が段々と狭くなると、ついには全てが真っ暗になったと同時に、体が地面に倒れた。 倒れる直前に縋るようにその手に掴んだはずの雪の服も、椅子にかかっていた服も全てがいつの間にか砂塵となって消えていた。

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