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第24話

「ここは?」 ぼーっとした頭で周囲を見回すが全く見覚えのない部屋に戸惑い、上半身を起こそうと腕を動かそうとしたが、カチャンと音がするだけで動かすことは出来ない。こうも何回もこのようなことが続けば、イヤでも腕も足も何かに縛り括り付けられているのだろうと見るまでもなく分かる。 首をぐっと上げようとして、違和感を感じて頭をぐいぐいと振ると、こちらもまた何かによって動きが制限されていることに気が付いた。 少しは動かせる腕で首元の何かを引っ張り、それが犬にはめる首輪だと分かる。 ご丁寧に鎖までついて、天井からぶら下がっている。 「逃げれば苦しむってわけか…嫌なことをするな、雪。」 音もなく開いた扉から雪が湯気の立った温かそうなスープを持って入って来た。 「静かに来たつもりだけど、俺の足音でも分かるの?だったら嬉しいんだけど。」 微笑みながら扉を閉めて近付いて来る。 分かってるくせして、言わせるところが本当に雪の嫌なところだ。でも言わなければ、何をされるか分からない。 仕方なく、ため息をつきながら雪から顔を背けて口を開いた。 「分かっているやつに言うのも馬鹿馬鹿しいけれど、縛りの相手が近付くとそれと分かる鼓動を感じるんだよ。だから、お前がどんなに気配を消そうが俺にはお前が近くにいるということがバレバレってことだよ。縛った本人が知らないわけないだろ?本当に嫌な奴だよ、お前は。」 「そんなふうに怒らないでよ。俺は呪いをかけて縛る側だったからどう言うことが起きるかは知ってはいるけれど、それをされた事はないからどんな風に自分の体が感じるかは知らないんだ。だから、この鼓動が縛りによるものなのか、宵の口から聞きたかっただけなんだからさ。」 そう言ってベッドにぎしっと音を立てて座ると、上半身が起き上がれるように手首の鎖の長さを調節する。 体にかかっている布を汚れないようにと少しずり下ろし、食べやすいようにと動かせない俺の代わりに体とベッドをあちこち整えてから、スプーンに黄色味がかったスープを掬い、雪がフーフーと吐く息で冷ましてから俺の口に運んだ。 「熱っ!」 思った以上に多かったスープが口の中に無理矢理流し込まれ、飲み込めずに口端から垂れた一雫のスープが俺の首を伝い胸に向かって線を描いていく。 あぁ、くそっ!食べさせる気なんかなかったのか…。 心の声が聞こえたかのように俺をじっと見つめると、雪がにまぁと笑った。 「零れちゃったねぇ、スープ。でも、宵はこんなんだから拭けないし、代わりに俺が拭いてあげる。」 「初めからそのつもりだったんだろう?!」 俺の言葉に、えぇ?と心外だなと言うような顔をして、俺の首のスープを舌でぺろっと舐めた。 「んっ!」 抑えられない声が出てしまい、口を閉じたくても縛られた手ではそこまで届かない。熱くなる顔を背けてもそれは雪を喜ばすだけ。分かっていてもそうせざるを得ない自分が悔しい。 ごくりと喉を鳴らしてスープを飲み込んだ雪が俺の顔を自分の方に向けて、スープのカップを差し出しながら舌なめずりをした。 「いい味。宵の味と混ざって、すごい美味しいな、このスープ…」 次にされるであろう事に顔は青ざめ、体を捩って雪に切願する。 「やめてくれ、雪。もう、スープはいらないから。だから…っ!」 しかし、そんな俺の必死の訴えも雪のにまぁとした笑いを見れば無駄だと理解するしかない。 「宵も俺も、傷もつかないし病気もない。本当にいい身体だよね?だから、多少の無理も永遠の時を過ごす中でのちょっとした遊びになる。ね、宵もそう思うだろう?」 そう言って手に持ったスプーンになみなみと掬ったスープが冷まされることなく俺の肌の上に垂らされていく。 火傷するほどの熱さではないが、それでも皮膚がチリッとする痛みに声が出る。 「くぅぅっ!やめ…っ!雪、許し…てぇぁああああっ!」 垂れたスープをわざと尖らせた舌で痛みを与えるように舐め、落ちた具を皮膚から噛みちぎるようにして口に入れる。 「これじゃあ、いつになっても食べ終わらないし、冷めちゃうなぁ…ねぇ、宵?」 にまぁとした笑顔で俺に向かってそう言いながら手に持ったカップが俺の体の上でだんだんと斜めになっていくのを、頭を振って雪にイヤだ、やめてくれと哀願するも、すでに雪の耳にはその全てが気持ちいいと変換されて俺の言葉は届かない。いや、寧ろ俺の本心が雪の耳に届いているのか…もう、痛みも快感もぐちゃぐちゃになった身体を雪に文字通り貪られながら、その気持ち良さに我慢できなくなり、大きくなっていく声と吐息に雪の名を重ねて果てた。

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