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第25話

憎しみと愛をぶつけ、その全てを受け入れて、それ以上の執着で俺をがんじがらめに縛り付け、何年も何十年も雪は俺の体を貪り続けた。 毎日、毎日、変わらない日々、ただただ続く日常。 そんな日々の中にあって時々、擦れて劣化したロープや鎖が俺を思いがけず自由にしてくれた。 何も着ていない素肌にシーツを巻きつけ、雪の目と手の届かないところに、見つからないところにと必死で走る。 人の暮らしはいつの間にか俺達の家の近くまで進出してきて、流石に見つかればまずいと言うことくらいは分かるので、それらを迂回しながら、夜間の移動を繰り返して、なんとか落ち着く頃には例の鼓動が俺に雪が迎えにきたことを知らせる。 「イヤだ。来るな!でも、会いたい…抱きしめ愛して欲しい…」 どうにもならない感情を抑えつけるように自分の両腕で自分の身体をキツく抱きしめる。 嗚咽と共に雪の名を呼びそうになる口を腕で塞ぐ。 「みぃつけた!」 突然に背後からぬっと出てきた腕に抱きしめられ、俺はがっかりしながらも、その腕の力強さと懐かしさに安心する。 手を繋ぎフラフラと歩いているうちにいつの間にか家に着き、再びベッドと雪に縛り付けられる日々が始まる。 「わざとだろ?」 何回目かの脱走後、やはり捕まってベッドに括り付けられながら雪に尋ねた。 「何の事?」 手を動かしたままでにまぁとした笑いを浮かべて俺を見る。 「俺が脱出できるようにわざとロープや鎖を劣化したままにしているんだろう?」 「そんなの…当たり前だろ?俺も時々は永遠に続くこの日常にスリルが欲しい。宵はうまくすれば俺から逃げられる。だから、丁度いいだろう?」 そう言って、お決まりのように湯気の立ったカップからこぼれそうなスープを掬ったスプーンが口元に近付く。 口を開けると、スプーンが傾いて口の中にスープが入る。しかしそれはだんだんと天井の方に遠ざかり、口をはみ出してスープが俺の体のあちこちに垂れる。 「あーあ、いっぱい垂れちゃったね、宵…どうして欲しい?」 俯いた顔から目だけを上げて俺を見る。そのゾッとするような視線とこれから行われるコトに、雪に慣らされた俺の身体は喜び反応し、心はその支配から逃れられない絶望に打ち砕かれて抗う事も諦め、口は勝手に言葉を吐き出す。 「俺もスープも雪のお腹がいっぱいになるまで、舐めて食べて、貪り尽くして欲しい。」 上げた雪の顔が微笑んでカップを高く上げ、ゆっくりと斜めに傾けていく。 また始まる… それがゆっくりと俺の体に垂れて来るのを見ながら、始まるいつもの日常に心の平穏を感じていた。

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