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第9話 オレも悪いが、お前も悪い
「あー、疲れたぁ」
教室の装飾やら、看板作りが佳境に入る学園祭の2日前。
毎日の作業に、洸が音 を上げる。
「癒やされてぇ……」
言葉と共に伸びてきた洸の手に、オレは顔を引いた。
洸から逃げたオレの唇に、後ろから伸びてきた大きな手が覆い被さった。
引き寄せられる頭は、その胸にぽすりと後頭部を埋 める。
口を塞がれたオレは、真上にいるであろう手の持ち主に瞳を向けた。
「僕のものになったんで、勝手に触らないでほしいんだけど」
オレの瞳に映るのは、にっこりとした笑顔を見せる来須の顔。
笑顔と称される形にはなっているが、背負っている空気は、バチバチに荒れている。
独占欲を隠すコトなく洸を見やる来須。
あまり褒められたものではないその感情を普通なら隠したがるものだが、来須は逆に全開でひけらかす。
お互いがお互いのものだと主張しあったオレたちは、あの後、一緒に下校した。
駅までの道のりで、オレが殴った場所を、何度となく擦 る来須。
どうせなら、“痛かったんだから謝れ”と怒ればいいのに、来須は何も言わなかった。
気づけと言わんばかりの仕草で、殴られた箇所を擦るのに、オレを責めてはこなかった。
駅まで数メートルの場所で、足を止めた。
「あぁもうっ。悪かったよ」
オレの方が空気に堪えきれず、口火を切った。
「あ、え?」
キレ気味の謝罪を受けた来須は、きょとんとオレを見やる。
「殴った俺が悪かったって言ってんの」
殴ってしまった場所を視線で示すオレ。
オレの瞳の先を追いかけた来須は、そこを押さえる自分の手を見やる。
「でも、あんな強引にしたお前もお前だからな」
何の前触れもないキスは、暴力に等しい。
当たり前だが、防衛本能も働く。
強引に唇を奪われれば、そりゃ反撃にも出るってもんだ。
「普通は、告白が先だろうが」
きゅっと眉根を寄せ、詰め寄るような瞳を向けるオレに、何度となく瞳を瞬いた来須。
「ぁ、…うん。そう…だよね」
キスをするより先に“好きです”と告げるものだろうと説くオレに、来須は空気に飲まれるように頷いた。
「なんで実力行使なんだよ? そのクセ、オレが好きって返したら固まるし……」
険しい顔のままに首を傾げ、矢継ぎ早に胸の中のもやもやとした疑問を吐き出していく。
「オレがお前のコト好きだって知ってたから、100%付き合えるって確信して、ちゅーして告白してきたんじゃねぇの?」
なんでオレの告白に固まったんだ?
付き合えるって、…オレの気持ちがお前に向いているっていう確信があったから、実力行使に出たんじゃねぇのかよ。
それなのに、オレが好きだと伝えたら、嘘だというように思考停止しやがって。
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